作品

概要

作者Thinks
作品名エブリデイ・イン・ザ・レイン
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-08-05 (水) 21:36:38

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「梅雨よね」
 当たり前のことを改めて実感させられた。しかも一言で。これが何度か続いている今日この頃である。
 
 そろそろヨレが出てきたシャツのジメりを何とかしようと鞄から手ごろなプリントの類を取り出して団扇代わりにしてみる。
 が、追いつく気配は無く、これぞ焼け石に水かとは思うが、まったく正反対であるのはいかがなものだろうか、比喩表現として。
 俺が何かそれの変わりになる言葉を脳内辞書から検索しようとし、その役に立たなさっぷりに辟易していたところ、
「んー、鬱陶しさが三倍増しくらいになる顔よね。何処で拾ってきたのよ」
 何故か長机の真正面に回ってきていたハルヒが、えらく失礼な発言をしやがった。
 手前の顔を、そこらに落ちてるやつと取り替えたいと希望する事は金輪際未来永劫無いだろうよ、誰しも、だ。
 顔が挿げ替えられるとすりゃまあ、ちとテレビ受けでもする顔があれば将来有望ってなもんだが。
「キョン君はその顔が良いと、あたしは思いますけど…」
 いやいや例えば、ですよ。朝比奈さん。
「僕もそう思いますね」
 おまえが言うとイヤミ以外に聞こえないのを知った上でのことだろうな、古泉。
「………」
 長門は何もこの湿気を気にする事もなさそうであるが。おそらく手にされ読まれている本は湿気を吸い込んで若干ながらその重量を増していることだろう。

 敬はもちろん、礼はおろか遠慮、神経なんてな言葉すら載っていないと思われる漢和辞書を持った女は、頬杖を付いて窓の外を恨めしそうに睨む格好に戻った。 
 あんたのせいだからね、と、どんよりとした空に向かって説教を始めかねない、低いんだか高いんだかわからないテンションだ。説教するなら俺の居ない所でやっていただきたい。

 そりゃまそうだ。喜ぶのは逞しくも地上環境に適応した貝類であるとか、他所様の庭先を彩る紫陽花くらいなものかと。そんな季節である。
 いや、少しその時期は通り越している。梅雨明けは何処<<いずこ>>に行ったのやらと今朝方、、妹お気に入りのキャスターなんかは深刻に見える顔で映ってた。
 だから、表に出るにも傘なり何なりの雨具が必要であり、そのような物を使用してもあの、毎日が競歩か何かの集団トレーニングとも取れる通学路にはあまり意味が無く、
ホームルームが開始される時点で不快指数は最高値であり、そして今になっても下がることは、無い。
 だが、俺の不快指数なんてなモノは一般的である。最高値があるからな。
「帰るわ」
 盆と正月辺りに良く訊く乗車率くらいの不快指数の持ち主は、鞄を肩にかけると傘立てから一本抜き取って帰ってしまった。
 この調子が続いているもんだから、この天気が始まってから部活動らしき物は行われていないと言って過言は無い。
 
「少しですが、危機感を覚えますね」
 古泉が机越しに話を振ってくる訳だが。その顔からは危機感も不快指数も感じられない。ってか何故に爽やかで居られるのか。俺はそれが聞きたいんだが、
だがしかし、会得するために僕はこんな努力をして来たのですよなんてなエピソードはいらんぞ。
「そうですね、一冊の本くらいに纏める事ができれば、読んでいただけますか?」
 簡単な方法を編み出してから三行ほどで聞かせてくれ。
「また無茶を」
 そう言うと、爽やかさ三倍増しくらいの笑顔を見せてくれる古泉。そんじょそこらの男がその技を盗もうと努力したならば、相当の大恥をかくに違いない。
「だがまあ、その無駄な爽やかさを、少しでもあいつに分けてやる方法を編み出すのが先決かも知れんよなあ。有効利用ってヤツだ」
 そんな物が無い事は解りきってはいるが、あえて口に出して言う。
「やはりあなたも、危機を感じていたと。そう理解してよろしいですか?」
 俺の嫌味なんぞはこいつには通用しないようだ。
 
 ハルヒがその不機嫌度を増し増しにしているのは解ってはいる。そんなもん今の姿を見れば誰でも解る。 
 ほぼ毎週のように開催されてきた週末の探索活動も先週末は中止となってしまった。少々の雨なら決行されただろうが、雷を伴ってしまうと流石のハルヒも引いたようだ。
 と、その時は思っていたのだが。外に出るのも面倒くさいので、家でごろごろしながら過ごしていた時、ふとその考えが間違っているんじゃないかと言う思考を巡らせてしまった。
 
 あいつは、雷鳴が轟いてる時こそが不思議が現れるのよ!なんてなことを思うヤツなんじゃねえか、と。
 
「それは…あるかもしれませんけど。でも、涼宮さんなら雨とか梅雨なんか吹き飛ばしちゃうかも」
 朝比奈さんが言う。それをしないのがハルヒでもあるんでしょう。今、雨が降らなければ後で困ることもあいつは考えるでしょうからね。それくらいのことは我慢するくらいの常識は持ち合わせているんだとは思いますよ。
 もっとも、都合の悪い時に台風が来るとかなら進路くらいは簡単に逸らせて見たり、逆に発生させたりはやりかねませんが。
「あはは、そうですよねえ………」
 頬を掻きながらの笑顔を見せてくれた。少し不快指数が下がった気がする、いや、下がりました。少なくとも俺の周りだけは
 この時期、あなたは地上にある太陽なのかもしれませんね、朝比奈さん。
 
 ぱたん。
 長門が、湿気ているかもしれないハードカバーを鞄に突っ込み始めた。と、同時に追い出しのチャイムが鳴る。
 この学校に長居する理由。それはこの雨の中あの坂を下りるのが面倒臭いくらいなことだから帰らないと仕方が無いだろうよ。
 
 そう思って鞄を背負って傘立てを見てみたら、
 俺の傘持って帰ってやがるわ、あの女。どんな嫌がらせだよこれは!?
 
 残りの傘の本数を数えてみれば、きっちり三本。このピンクの水玉のは朝比奈さんで、所謂蝙蝠傘は、古泉のか。少し明るめの柿色のは長門のなんだな。俺の傘が無いな、やっぱ。
 しょうが無ぇ、古泉。駅までおまえの傘に入れてけ。ああ、大丈夫です朝比奈さん。少し止ませてから帰りますよ。長門、大丈夫だから、それはおまえが差して帰れよ。
 
 などと会話しながら玄関まで行って見れば、俺の靴箱の扉が開いていて今朝持ってきた傘が引っ掛けてあり、それには、
『間違えちゃったわ、返す』
 と書かれたメモが張ってあった。
 
 何がしたかったんだ、あいつ?
 
 ってか自転車で来ちまったぞ。こりゃ家に帰ったら風呂かな。めんどくせえな…やれやれだ。
 
−−−−−
 
 帰宅直前。
 わたしの拠点の前に立ち、待っていたのか。それは、想定外の人物。
「涼宮、ハルヒ」
「何よ。前から名前で呼びなさいって言ってるでしょ。二人の時くらい良いじゃない」
「…そう」
「そうなのよ。そうしなさい」
「……ハルヒ」
「何よ」
「……特に」
「…ん、有希らしいわ」
 
 涼宮ハルヒは、俗に言う濡れ鼠の状態で、わたしのマンションの前に立っていた。
 
「あのさ」
「……何」
「訊いてくれるだけで良いわ……」
 
 涼宮ハルヒはそう言って、俯いたままで語りを続ける。
 
「歳を取るって、もったいないわよね」
「………」
 
 意味不明。
 より長く生存したい、と言う願望なのか。有機生命体の。

「私はそう、思うの。天気ごときでじっとしてなきゃいけないのがもったいないの」
 そう言った涼宮ハルヒは、雨を顔に受けたいのか。上空を見つめて、さらに。
「大人になるって何なのかしら。歳をとったら自動的になるのよね。法律的には」
 わたしに眼を向けると、少し感情的に。
「あたしは認めない。あたし、何も出来ない時間を返せるのなら子供のままで良いわ!」
 そして俯くと、少し落ち着いた様子になった。
 
 これは重要なデータ…しかし。より分析が必要。……わたしに分析可能だろうか。分析前のデータも保存して置くこととする。
「なんだか話したかっただけ。じゃ」
 帰る方向に首を向けようとするハルヒに、わたしなりの答えを述べる。
「大人になることとは、責任を負う事。使命や命令に背ける代わりに、自己が責任を負う。それが、大人。そう、認識している」
「あたしはね。ずっとあたしが好きなことをしていたいの。有希や、みくるちゃん、……みたいなのと一緒…にね」
 
 涼宮ハルヒは歩き始めながら返答すると、そのまま、雨と呼ばれる、何処からともなく注ぎ続く水を気にもせず。わたしが来た道を戻って行った。
 
−−−−−
 
 翌日。
 放課後に部室に集った五人は、やはり鬱陶しいオーラに包まれていた。
 その発信源は約一名。昨日と変わりない天空からの恵みであろう、朝から降り続けるありふれた温い物質に向けてのモノであった。
「暇よね」
 ボソッと一言。
 確かにな。外に出られないからこうやって見守るしかないわけで。これは不可抗力の一種だと言うことをこいつも解ってるから暇するしかないのだろうが。
 傍迷惑な事この上ない。
 
 しばしパソコンを弄っていた後、
「なんか憎たらしくなってくるわ、この音。止まないかしらね、雨」
 もう帰ろうとしているのか鞄を肩にかけながら、なおも窓の外の雲を睨みながらハルヒが呟く。
 一年中降れば良いと思うほど好意的でもないが、雨が降り続ける音を、俺は不快に思わない。部室内は雨音で満たされているから、これを不快と思うならばかなりの拷問であろうが。
 しかしこの湿気だけは堪らんなと思いながら、昨日、手動扇風機に任命したプリントを鞄から弄っていると、
「レインドロップス ア フォーリン オン マイ ヘッド…」
 澄んだ声が、ジメって新種のカビでも生えそうな部室に響いた。
 
「アンド ジャスト ライク ザガイ フーズ フィートアトゥヒズベッド ナッシン シーム トゥ フィットゾゥズ…」
 昨日と同じ、厚い本を読んでいたはずの長門が謡っていた。
 意味が解らない歌詞と状況に何事かと見守る俺。ハルヒもそうだったようで、鞄を提げたままきょとんとして長門を見守っている。
「raindrops are falling on my head, they keep falling…so I just did me some talking to the sun…」
 何かを理解したのか、古泉が参加した。ギターを弾く素振りで、だ。こいつはこんな技も持っていたのか。
 さらに、朝比奈さんが控えめな音でのハンドクラップで参加した。俺はまったくの置いてけぼりだ。
 長門を中心にし、歌と演奏がしばし続いていく。
 
 呟くような歌声が聞こえた途端、ハルヒが、鞄を放り出して言った。
「キョン!外に行くわよっ!!」
「なんでだよ!?」
「自由だからよ、あたしはっ」 
「because I'm free…nothing's worrying me…」 
 
 先頭を切って屋上に出て行ったのは長門だった。
 視線で呼ばれたハルヒが雨の中に出て行く。おまえら、どうやって帰る気だ。って、
「ぶあぁっ?」 
 ハルヒが両手でもってその容量と思えないほどの水を、俺の顔面にぶっかけた。
「へへーん!」
「なにすんだよおまえはっ!!」
「これはSOS団ずぶ濡れ合戦なのよっ!つべこべ言わずにあんたもやりなさーいっ!!」
 
 なっ。
 突如始まった企画。しかも、ずぶ濡れ合戦ときた。
 意味が解らんのと突如始まるのはもう慣れたつもりだったが……。さて。既に下着までも濡れてきた訳だが。
「よし。うけて立ってやろう。食らえぇぇぇ!!」
 
 狂気の沙汰、とも思える光景だったろう。
 その後、俺らは一時間ほどに渡り、学校の屋上で雨に打たれながら、雨に纏わる歌を歌ったり足元の水を掛け合ったりしてた。
 実際、なーんにも考えてなかった。じゃないとできねーだろ。
 
 もう五人ともびしょ濡れだ。朝比奈さんはハルヒに手を引かれるまでは階段の所まで逃げてたし、古泉はサボタージュを決め込む予定だったようだが。
 今、階段では俺らの携帯やら財布やらが朝比奈さんの代わりに退避中である。
 
 一向に雨は止まない。日が差して虹も架かるくらいの演出が欲しいな。
ハルヒが雨降りには定番の童謡を歌い、なんだか開き直った感のある朝比奈さんが先ほどのようにハンドクラップで伴奏し、長門がそれを傍観している、と言う状況では晴れそうにはないが。
 
 しかし、俺ら見るからアホ丸出しだわ、一張羅のスラックスがぐちゃぐちゃだわ、服は透けまくってるわ、教師に見つかったらどう説明すりゃ良いんだ?
 まあいいか。高校生ともあろうものが、
もとい。
 そこそこの歳を取った子供らがバカやった、ってことだろ。俺らはまだ子供だ。これが楽しくてしょうが無ぇんだから。だろ?
 
 んじゃ良いじゃねえか。
 
 しかし、絶対風邪引くな。SOS団は明日、皆風邪引きで教育を受ける権利と義務を放棄するのだ。
 
−−−−−
 
 と、思っていたが。
 朝、スカッと目が覚めてみれば、昨日からすれば思いもしなかった晴天。
 毎度の朝の顔、妹お気に入りのテレビのキャスターは慢心の笑顔で、なんと今日、気温が三十五度になると言う。突然の真夏宣言だ。
  
 体調は絶好調なのだが、おふくろが少しご機嫌斜めなのは、今日着て行くはずの制服が鞄の中でずぶ濡れのままだったのを夜遅くに発見したからだろう。
 何とか乾いた、少しきつめの制服に手を通しながら思う。
 
 またおまえか、ハルヒ。いや、、長門か。
 
−−−−−
 
 涼宮ハルヒは、大人になりたくない、と言う願望を持っている。それは、回避であり逃避でもある。彼女がこの思考を持ち合わせた。これは新たな展開に繋がる。
 このまま事態が進行すれば、いずれこの願望が現実になることであろう。…時間閉鎖?
…彼女ならやりかねない。その場合想定できることは…
 
 へくしっ。
 ………?
 雨に打たれたから。…だろうか?
 
−−−−−
 
 五分の四乾きの制服が、汗染みて半乾きになった頃。
 通学路の途中に後姿を見つけた俺は、少し周りを見渡したあと、少しいつもよりクセ毛が多いっぽい長門の横に付いていた。
「よお」
「………」
 何か返してくれないと、困るだろ。主に俺が。
「………?」
 その瞬きは疑問形だろうが、そのままだからな。仕方が無いので少し話題を振ってみることにする。
「晴れたなあ。もうじき夏休みだ。長門、おまえ夏休みの予定はあるか」
「……特に」
「そうか、まあ、予定立てた所でその通りに行くことが無いのが夏休みと言う話もあるからな」
 実際、一度も計画通りに消化したことが無いし。
 
 宇宙に里帰りするんなら誘ってくれよ、とか続けそうになったところで長門が話しかけてきた。
「あなたは、昨日の行動をどう考える?」
「昨日の行動…あれか、皆で濡れたら怖くない的な」
「そう」
「あー、率直に言えば、俺ら全員子供だって事だ」
「子供?」
「後を考えずに今楽しい事しちまうんだからそうだろーよ」
 誰かが典型的なそれだよな。
 
「………あなたは、なりたい?」
 いきなり妙なことを訊いて来るもんだから 「大人に、か?」 と、少々裏返った声で返してみれば、
「そう」
 一言で返されてもピンと来ない。だから俺は、
「貰える物っていやあちょっとした権利くらいなもん…か、あんまり考えた事無いわ」
「…わたしは、なりたい」
「そりゃまた、なんでだ」
「………なんでも…ふぇっ、ひくしっ」 
 長門。大人になりたかったら、とりあえずくしゃみは口を押さえてやろうな。
  
「そうだな。じゃあ」
 俺は長門の頭に手を置き、くしゃっとしてやって、
「まだ子供同士、今は楽しくやるか」
 と、言ってみたところ、
「………」
 無言で、俺の手の上に自分の手を乗せてきた。…どうやら邪魔と言うわけではないらしいので、
そのまま学校に向かったわけだが。
 
 
        俺らはなにか、傍聞きの悪い話をしていたのではなかろうか。
                               ……そう?

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:32 (2003d)