作品

概要

作者そのへん
作品名エンドレスエイトエンド
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-07-16 (木) 16:45:28

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 8月31日。宿題、手付かず。

 

 そうさ、どうせこんなものやったところで意味は無い。何せ俺たちは夏休み最後の2週間を延々とループしているらしい。かれこれ約493年分になるらしいのだが、その間俺たちは何をやってもループからは抜け出すことがこれまた出来なかったらしい。
 らしいらしいの連続だが、本当かどうか確かめるすべは俺にはないのだからしょうがない。ないのだが、この2週間、あの長門のどうにも退屈そうな顔を見ていると、さすがにもう次のループは来るんじゃねえぞと溜息の一つや二つもこぼしたくなる。

 

 なあハルヒよ、だんだんとやることが滅茶苦茶になってきてやしないか?

 

 そんなわけで8月最後の夜の午後11時54分。俺は部屋の電気を消していそいそと布団にもぐりこんだのであった。

 
 

       『エンドレスエイトエンド』

 
 

 そしてまた朝が来る。これがハルヒのとんでもパワーによってループされた8月17日か……と考えたところで違和感に気づいた。なぜ、俺はそのことを覚えているんだ? ループの際にはきれいさっぱりと、少なくとも昨日の夜に考えていたことなんぞ忘れているのではなかったのか。
 もしや、ついに俺も長門みたく記憶を持ったままでのループを開始したんじゃないだろうな。それは、おそらく地獄のような日々だろう。慌てて携帯を探し、長門の番号を――押そうとしたところでまた気がついた。

 

 ディスプレイには、9月1日とある。

 

 ん? 9月ってことは………どういうことだ? ループは8月17日から31日までじゃなかったのか? ハルヒのやつ、ついには夏休みでは飽き足らず、2学期もろとも繰り返そうというのだろうか。

 

「キョンくーん、そろそろ起きてーってもう起きてるー」

 

起きてちゃ悪いか妹よ。ところで、その背中にしょっているのはそりゃ何だ?

 

「何って、ランドセルだよ? 変なキョンくん」

 

そう言って目の前でくるりと一回転。うむ、将来性は非常に高いな。ではなく。

 

「学校へ行くのか」

 

「うん!だってもう出ないと遅刻しちゃうよー」

 

「そうかそうか…ってなんですとっ!?」

 

 時計を見ればすでにいつも家を出る時間を過ぎている。とてもじゃないが朝飯を食ってる暇などなさそうだ。ループだろうがなんだろうが、とにかく学校へは行かねばなるまい。俺はすばやく制服に着替え、机の上にあったものを適当に鞄に放り込んでそのまま家を飛び出した。

 
 

「どうやら例のループ現象は収まったようですね。今のところ、閉鎖空間も現れていません」

 

 朝の部室にはハルヒを除いたSOS団員が集まっていた。ところでチャイムまで後何分だ?

 

「良かったです〜。ちゃんと未来とも禁則事項で禁則事項できて禁則事項でしたぁ」

 

ああ、朝比奈さん。何が何だか俺にはさっぱりですがそのエンジェルスマイルだけでもう万事オーケーです。

 

「……涼宮ハルヒはこの夏休みを無意識下で物足りなく思いループさせていた。しかし、今回のシークエンス、15497回目で彼女はこう考えた」

 

そしてここまで発言していない長門は必然的に解説役だ。

 

「どんなだ?」

 

「……言語化は、可能、ただ――」

 

「ただ?」

 

「………彼女の、普段口にしている言葉で置き換えるなら、『ま、いっか』と」

 
 

 ………おい。500年近く繰り返して結論がそれってどういうことだよ。

 
 

「まあまあ。とにかく涼宮さんも一歩成長した、ということでしょう。"妥協"ということを覚えてくださったのは我々としてもありがたいことではありませんか」

 

「それは確かにそうだが……」

 

「涼宮さんはループしている間の記憶がないんですよね? っていうことは、ちゃんと心から諦めてくれたってことですかぁ?」

 

「あーそれはあれじゃありませんか? お得意の"気まぐれ"ってやつですよ」

 

「なんにせよ、全ては解決しました。これで2学期にも無事に入れるというものです」

 

「本当に良かったですぅ〜」

 

「………」

 

 ま、それならそれでいい。特に俺には不都合もなく、とんでも災厄が降りかかってくるでもなく、世界は崩壊せずに今日も地球は回っている、と。何も悪いことなんかありゃしないさ。

 
 

 はずだった。

 
 

 始業式も終わってホームルーム。開始10秒で俺の背中は冷や汗だらだらだった。
 そう、教師の『夏休みの課題集めるから後ろからまわして来い』の一言で。

 
 

 8月31日。当然のように次もループするもんだと思っていた俺は、まったく、これっぽっちも1文字も課題をやっていなかった。
 さて、どう言い訳したものかね。『家に忘れてきました』は定番だな。今は手元にないがやってはありますよ、ということをアピールできる。しかし今日は休み明け一日目であり、したがって午後の忌々しい授業は(こういう時にだけ)なく、今から家まで取りに帰れと言われると非常に困る。『失くしました』というのはどうだろうか。……かなり嘘っぽいな、これ。いっそのこと『どぶに落とした』はどうだろう。……ますます嘘っぽい。

 

 その後も『関西人が目からレーザー出して焼き払った』などパニックになりながらいろいろと考えてみたものの、たかが課題を集める2・3分で都合の良い言い訳など思いつくはずもなく、結局俺は正直に『全くやっていません』と答えるしか道は無いのであり、高校に入って初めて教師に怒鳴られるという不名誉なイベントをこなしてしまったのである。

 
 

 というわけで放課後。そこには目に涙を浮かべながら課題をする俺の姿があった。勘違いするな。これは己の不甲斐無さを悔いているんじゃないぞ!

 

「あんたはもっと悔い改めなさい! 有希がいなかったらあんた今頃は樹海よ、樹海」

 

「宿題ごときで自らこの世とさよならはしたくないね」

 

「あたしが連れて行くのよ」

 

「……そうかい」

 

 それはそうと俺の涙の理由だが、なんと長門が自分の課題のコピーを持ってきてくれたのである。どうやったのかとかなぜあるのかは聞かない方がよさそうだ。だがこの涙の意味はお分かりだろう。そう、これは感涙だ。

 

「余計なことであったなら謝罪する。だから泣かないで欲しい」

 

 長門はそう言ったが、それは違うぞ。俺としてはこのままお前を抱きしめてしまいたかったが、さすがにみんなの前では自重した。いなかったら、まあ理性が何とかしただろうさ。その代わりに俺は極度の感動でも人は涙が出ることを長門に教えた後、そのありがたいコピーをせっせと写している最中というわけだ。

 

「ちょっとは解答変えなさいよ。丸写しは有希にも迷惑かけるんだからね」

 

「分かってるよ」

 

「それから! 2学期最初のSOS団ミーティングを潰した罰として、次の土曜日は問答無用であんたの奢りよ!」

 

それは毎度のことだろうから気にしてない、とは言わなかった。いや、気にしようぜ、俺。

 

 そんなこんなで俺がせっせと手首に負担をかけている間、ハルヒはネットサーフィン、朝比奈さんは編み物時々お茶汲み、長門は読書、古泉は詰め将棋と各々時間をつぶしていたようだ。いつものように長門が本を閉じる音で本日のSOS団の活動が終了する。そして、俺の課題は半分も終了していなかった。いくらなんでも多すぎる。

 

「あんた、頭悪いのね」

 

「ほっとけ」

 

 ふと、窓際の方から長門の視線を感じた。なんだ、長門。今の俺の顔がそんなに哀れに見えるのか?

 

「そうではない」

 

「だよな」

 

「課題のコピーはそれが全てではない」

 

「…………なんだって?」

 

「今ここにあるのは、今日あなたが部活の時間内で写しうるだろう分だけ持ってきた」

 

それを下回ってしまったのか、俺は……。ああ、なんだか樹海に行きたくなってきた。

 

「残りの分と、読書課題の本は、私の部屋にある」

 

げっ、まだそんなものまで残っていたのか。

 

「キョン、あんたちゃんと有希を家まで送るのよ! それから有希に変なことしたら死刑だからね!!」

 

……言われると思ったよ。

 
 
 

 ハルヒに古泉、朝比奈さんと別れた後、長門と二人でマンションへと向かう。

 

「悪いな、長門」

 

「…いい」

 

「そ、そうか」

 

「…そう」

 

……会話が続かん。

 

「あーそういや、夕飯はどうするんだ?」

 

「家にカレーがある」

 

課題を写させてもらっているお礼に、どこかで奢ってやってもよかったんだけどな。

 

「カレー、好きなんだな」

 

「……わりと」

 

 わりと、どころではない気がするぞ。お前といえばカレーというイメージがなぜか出来上がってしまっているからな。寡黙少女からカレー少女に華麗にジョブチェンジだ。いかん、勉強のしすぎで少し頭がやられているのかもしれん。

 

「………聞いてた?」

 

「あっとすまん、なんだって?」

 

「……だから、食べていって」

 

「何をだ?」

 

あれ、長門さん? なんか怒ってますか?

 

「………あなたは、夕飯を、私の部屋で、食べるべき」

 

今度は区切りをつけてはっきりと仰った。というか、べき、と断言されてもだな。

 

「今から私の部屋まで行き、課題のコピーのプリントを受け取り、それからあなたの家まで帰るのでは間に合わない」

 

いや、そこはほら、徹夜でも何でもしてどうにかするさ。

 

「無理」

 

即答で無理ですか。

 

「今日のあなたのペースではおそらく明日の朝ギリギリ。加えてあなたの家には課題に集中したくても妨害要素が多すぎる」

 

それはあの愛くるしい妹も入って……いるんだろうな、やっぱり。まあそれはその通りだろう。であるからこそ、今こんな状況に立たされているわけだしな。

 

「今夜は―――」

 

長門が、俺の目を真っ直ぐ見て言ってきた。

 

「うちに泊まって」

 

…………いやいやいや長門さん? それをどうやって俺の親に伝えればいいのでしょうか。

 

「大丈夫、情報操作は得意。古泉一樹の家に泊まったことにする」

 

それは、情報操作しなくとも電話一本で解決するんじゃないのか?

 
 

 結局、ありのままを親に話すと変に声を弾ませながら了承しやがった。普通しねえだろ。気色悪いったらありゃしない。
 そんなわけで長門の部屋である。相変わらずの殺風景な部屋だ。とくに何をするでもなくぼうっと座っていると、長門が大量のカレーとお茶を持ってきた。レトルトだが長門が選ぶだけあってとても美味い。
 それを汗をかきつつ食べ終わると、すぐさま課題に取り掛かった。とは言っても俺は長門の課題のコピーを写していくだけなのだが。

 

「…………」

 

 長門はといえば本棚から取り出してきた一冊を黙々と読み進めている。と思ったら急に何か書き始めた。何やってるんだ?

 

「…読書感想文」

 

「それも見せてくれるんじゃないのか?」

 

「……私が課題として提出したものは原稿用紙で50枚以上ある。それを写すのは今からでは不可能」

 

……国語教師の泣き顔が目に浮かぶ。長門よ。確かに課題は原稿用紙3枚以上とあったが50枚は書きすぎだろうよ。

 

「今からあなたのレベルに合わせて、もう一度感想文を書き直す。後30分もあれば可能。これならばあなたにも写すことができる」

 

それは嬉しいが、いまいち素直に喜べないのは何でだろうね。ええい、長門と張り合ってもしょうがない。今はこの文字と数字と記号の山を消化しちしまうことにしよう。

 
 

 静かな夜にシャープペンシルの走る音と時計が時を刻む音だけが響いていた……というのは半分だけ正解で、そもそもこの部屋には時計なるものが存在しないのだからそれも当然だった。

 

「……現在は9月2日の午前4時48分19秒60に該当する」

 

……そうかい。お前は人間デシタル時計か。いやきっとそうなんだろうが。

 

「…あと残っているのは読書感想文だけ」

 

……そうだな。でももう手首やその他いろいろな箇所が限界だ。少し休ませて――

 

「ダメ」

 

……ダメなのか。

 

「ダメ。ここで休憩を入れてしまうと、あなたは登校時間まで起きない可能性が非常に高い」

 

……そうか?

 

「そう」

 
 

 ……とは言ってもだな、俺にも体力と集中力の限界がある。自業自得とはいえ、そろそろ休みたいんだ。原稿用紙3枚の感想なんて一眠りしてからでも大丈夫だから――と俺は机に突っ伏そうとする。
 右手が何か柔らかいものに包まれたのはそのときだった。

 
 

「涼宮ハルヒが――」

 

ハルヒが、なんだって?

 

「涼宮ハルヒが15497回目でこの夏休みに妥協したのは偶然ではない。正確に言えば妥協ではない」

 

長門が、俺の右手を握りながら話していた。

 

「……涼宮ハルヒは本来ならば他のシークエンス同様、あの2週間を繰り返すつもりだったと思われる。でも、15497回目では違った。それはあなたのおかげ」

 

俺の? 俺はなーんにもしちゃいないぜ。

 

「……そう、あなたは特別なことは何もしていない。あなたはただ、涼宮ハルヒのやりたい事、思いついた事に純粋に楽しんでいるように見えた。違う?」

 

そりゃ夏休みだからな。どうせ遊び倒すのなら楽しくなけりゃダメだろうよ。おかげでこうしてノートと格闘してるわけだが。

 

「…涼宮ハルヒは15497回目のシークエンス、8月31日におそらくこう考えた」

 

「それは、昨日部室で『ま、いっか』に置き換えた部分か?」

 
 

「そう。彼女はこの2週間、あなたや私たちを強引に連れまわした。しかしあなたは不満や文句も言わず楽しんでいた」

 

「だから、彼女は思ったはず――」

 

「あなたが、やらなくてはいけない課題を放ってまで最後まで自分に付き合ってくれたと。一緒に楽しんでくれていた、と」

 
 

 ……そうだったかな? 俺はいつものようにやれやれとか言っていたような気がするが。

 

「それは、それがいつものあなただから」

 

長門の顔はいつもの無表情だったが、どことなく優しかった。

 

「彼女はこの2週間に満足していた、これは妥協とは言わない。そもそも涼宮ハルヒは妥協を良しとしない性格。ありえない」

 

 そうだろうよ。妥協するなら15497回といわずにもっと早くに終わらせていただろうからな。あいつは時間の無駄を何より気にするやつだ。それにしたって、これだけかけて出した結論がそれかよ。昨日も同じことを言った気がするが。

 

「……彼女は、自分の性格に関しても妥協しないから」

 

ん? どういうことだ?

 

「…なんでもない」

 
 
 

「私は――」

 

右手に力がこめられた。

 

「15497回のシークエンスを全て記憶している。あなたはこの現象に気づいたときも気づかなかったときも、同じように楽しんでいた。私はそれが……少し羨ましい。私という個体にはまだ"楽"という感情的概念がはっきりと定義づけされていないから」

 

 驚いて長門の顔を見る。よもや長門から羨ましいなどという単語が飛び出ようとは思わなかった。明日はきっと雨どころか雪だぜ。いやシャレではなくてだな。

 

「"楽"という感情はとても難しいもの。でもあなたを通じて私はだんだんとそれに近いものを体験している、ように思う。私はそれが、多分、嬉しい」

 

ああ、そうなのか、それで。

 

「あなたにはこれからも日常(いつも)を楽しんで欲しい。私が羨ましいと思えるように。だから―――」

 

長門の目が、やっぱり真っ直ぐ俺を見ていた。

 
 

「―――がんばって」

 
 

 ……その目は反則だ。男女二人きりの部屋。加えてこの距離、ついでに手は繋がれたまま。眠い頭が思わず理性を失いかけるのを必死で堪えながら、

 

「そうだな、ここまで言われて奮起しないようじゃ一丁男がすたるってもんだよな」

 

 意味不明な言葉を言い返していた。……頭ではなくてハートで読み取ってくれ。すまん、眠いんだ。もう5時だしな。

 

「でも、俺だけじゃないぞ」

 

「……?」

 

なんて可愛く首を傾げるのか、こいつは。といっても数ミリなんだけどな。それでもちょこっと揺れる髪が、うむ、やばいな。

 

「お前も一緒に楽しまないとな。今回は1万とウン千回でさすがに飽きちまっただろうが、明日から、いや今からか。今は一度しかないからな」

 

「……了解した」

 

 再び数ミリだけ、今度は頭を縦に動かすと、長門は手を離して俺から少し離れた。名残惜しさがだいぶあるわけだが、確かにそのままじゃ課題は終わらないしな。さてそんじゃ、もうひとふんばりしますかね―――。

 
 

〜余談〜

 

そして、朝。

 

「……うかつ」

 

「……すまん」

 

 二人そろって遅刻し、教師から、クラスメートから、我らが団長ハルヒから、なんだかんのと言われたのは言うまでもない。

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:31 (3047d)