作品

概要

作者名無しかも
作品名
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-04-08 (水) 17:27:26

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

夜更けに女性から突然相談の電話が掛かって来る、という状況が健全なる男子高校生にとっては、さまざまな妄想をかき立てるシチュエーションである事については異論がないと思う。しかもそれが自分の知る限り、校内で10指に入る美人であればなおさらだ。
しかしながら、今の俺は眉間にしわを寄せて携帯を握り締めている。
電話の相手は間違いなく美人だ。いや“美人”という表現は適切ではないかもしれない。なにしろヒューマノイドインターフェースとかいう名称をつけられた、緑色の髪の先輩なのだ。

 
 

「今すぐ長門さんのマンションに来てください」
なにやら事が切迫しているようだが、全然緊張感のない声で喜緑さんは言った。
「長門さんの事でご相談があります」
なにやらまたややこしい話になりそうな雰囲気である。しかも喜緑さんが表に出てくるような事態だ。少々緊張しながら俺は言葉を返した。
「何が起きたんですか?またハルヒ絡みで?」
「いえ。今回涼宮さんは関係ありません。長門さん本人について、と申し上げておきます」
いやな予感がする。
「長門本人、ですか?一体何が・・・」
「とにかく、いらしてください。詳しい話はそれからいたします。事は急を要するのです」
そう言われては仕方がない。俺は取るものも取りあえず長門の家に急いだ。

 
 

長門の部屋のインターホンを押すと、はぁい、というほんわかした声がしてドアが開いた。
「いらっしゃい」
白百合のような可憐な笑顔で喜緑さんが迎えてくれる。とても急を要する様子には見えん。
えーと、それで、喜緑さん?
ニコニコしたまま俺の手を引く先輩に、やや戸惑いながら声をかけた。
「まあまあ、そう慌てずに。ゆっくりお話しますから。」
いや、急ぎだと言う事で来たんですが。
「あらあら、長門さんの事になるとせっかちさんなんですねえ。」
くつくつと楽しそうに笑っておられる。
居間では長門が制服姿で正座していた。俺の姿を見つけると、指をそろえて膝の前の床につき、ぺこり、と頭を下げた。えーと、これって三つ指ついて、って奴だよな?
どうした、長門?またなんかヤバいエラーでも出たのか?
「微小なエラーは継続的に観測されている」
それで・・・長門は、大丈夫なのか?
「誤差範囲は超えているが、自己修正可能なレベル。問題はない」
そうか。
「そう」
・・・・長門自身は、大丈夫だ、と言う。じゃ、喜緑さんの言う急を要する事態って何だ?
「長門さん自身の問題なのですが、長門さん一人の問題ではないのです。」
なんか持って回った言い方ですね。長門一人じゃないとすると、喜緑さんも関係あるとか?
「私も関係するかもしれませんが、今回は統合思念体と長門さんの間の問題なのです」
かなりいやな予感がする。
長門はつい先日、エラーの蓄積から暴走を起こして大規模な情報改変をやらかした。後日、長門の処分も統合思念体内部で検討されていた、と聞いた。ぎりぎり処分されずに済んだ長門は、いわば執行猶予中の身だ。今、喜緑さんは長門のバックアップであると同時に、監察官でもある。

 
 

「先日の件について、統合思念体は長門さんの存在自体を危険なエラー因子と捉えています。今後涼宮さんの観察任務を継続させるには、不適切ではないかと。」
いや、しかし、とりあえずはお咎め無しって事でこうして残れたんじゃないんですか?
「いえ。長門さんの立場があまりに微妙だというのが、長門さんが残された最大の理由です。長門さんがいなくなる事が、涼宮さんに与える影響が未知数だと判断されたのです。」
そりゃそうだ。長門がSOS団で過ごした日々は伊達じゃない。今ではハルヒも長門を大事な仲間として認めている。古泉も朝比奈さんも、含むところはあるにせよ、長門が自分達の仲間だと言う点については反対しないだろう。何の前触れもなく長門が急にいなくなったら、閉鎖空間どころではすまんのじゃないか。
「ですが」と喜緑さんは言葉をつなげた。「再度暴走を起こした場合、長門さんがいなくなる場合以上の影響が出ることも確かです。その点はなかなか結論が出なかったのです。」

 
 

コタツをはさんで向こう側に座る喜緑さんの顔には、すでに笑みはない。隣に座る長門は、膝のうえで握り締めた小さな拳をじっと見つめている。
で、ここに呼ばれたからには、俺が何かしなきゃいかんのですよね?喜緑さん。
「お察しが良くて助かります。」
喜緑さんは、また笑顔を浮かべて言った。
「統合思念体が出した結論は、長門さんの行動原則投影部を分離し、他の誰かに管理させる、と言うものでした。つまり、長門さんというインターフェースのマスターキーをだれかに預けて、長門さん自身もその人の管理下に入れてしまう、と言うことですね。」
ええと、つまり、長門がまた暴走しそうになったらそのマスターキーで長門を止めよう、と言うことですか?
「簡単に言うとそういうことになります。鍵をかければ暴走は止められますし、鍵を手放しても破壊してもその時点で長門さんが消滅します。」
えらく、物騒な鍵ですね。
「長門さんに発生したのが、それぐらい重大なエラーだったと言うことです。貴方がいなかったら、取り返しの付かないことになるところでした。」
いえいえ、そんな風に言われるほどの事はしてません。ていうか、俺じゃなくても同じ事してたと思いますし。結果として今の長門が助かってんなら、それでいいじゃないですか。
「・・・・なるほど。長門さんが入れ込むのも・・・・いえ、話を戻しましょう。」
ああ、鍵のことですね。それって、やっぱり喜緑さんが持ってるんですか?
「今のところは。」
今の所?
「ええ。ここからが本題なのですが、この長門さんの鍵をあなたに預かって欲しいのです」
ほぇ?俺は情けない声をあげてずっこけそうになった。いや、無くしたら長門が消えちまう鍵だぞ?俺なんかより、喜緑さんが持ってた方が安心ってもんだろ。
「ふふ。信用していただけるのは嬉しいのですが、私もインターフェースである以上、長門さんのような暴走を起こさない保障はない、と言うのが統合思念体の考えなのです。」
苦笑を浮かべて喜緑さんは視線を落とした。
「情動の不安定な人間に預けるのもいかがなものか、という意見もありましたが、長門さんの暴走を最終的に止めた人であり、長門さんを近くで見てきた理解者、そして涼宮さんの鍵でもある貴方に長門さんのマスターキーを預けよう、という結論に到達しました」
・・・あーえーと、その、多分向いてないと思うんですが。俺。
教科書とか週に一度は忘れていきますし、家の鍵も3回ぐらい無くしてますよ?
「鍵と言っても、実際に金属でできた物ではありません。長門さんの情報の一部を貴方に移植する、と考えてもらっていいです。受け取るかどうかはあなたにお任せしますが、鍵の保有者がいなくなると長門さんは自動的に消滅することになります。その場合、最小限の情報改変を行って私が長門さんの位置に入ることになるでしょうね。ちなみに、決定の期限は今日中ですので、お急ぎください。」
って、後15分しかねーじゃん。喜緑さん、確信犯だね。

 
 

ふと横を見ると、長門が無垢な瞳で俺を見つめている。
「・・・あなたの負担になる事は間違いない。無理に受け取る事は無い。」
そう言って少し俯いた。シャギー気味の髪がわずかに揺れる。
ああ、かわいいなあ、こんちくしょう。
「インターフェースの情報を有機生命体に移植することが、どういう影響を与えるか予測できない。受容する事は推奨しない。・・・あなたには感謝している。今までありがとう。」
「おやおや長門さん、今生の別れの場で、他に言わなきゃいけない事はないんですか?」
にこやかに長門に話かける喜緑さん。
そんな、ちらちらこっちを見ないでください。えーえー、判ってますよ。今生の別れ、なんかにさせませんから。マスターキーとやら、俺が預かります。それでいいんですよね?
「ご協力痛み入ります。」
そういって喜緑さんは俺の右手を取ると、小指の第二関節の辺りを軽く噛んだ。むずむずする感覚は、ナノマシンなんだろう。まあ、これなら確かに無くすことはないか。
終わりました、と言うと、喜緑さんは俺の手を離した。
最初から、俺が断るなんて思ってなかったんでしょう?
「もちろん。そうでなければあなたに声をかけません。そっと情報改変して、何もなかったように振舞います。」
喜緑さんなら、できるんでしょうね。
「うふふ・・・でも、ちょっと長門さんがうらやましいです。『お前の人生は、俺が預かる!』なんて言ってくれる殿方がおられるんですから。」
言ってません。預かったのは鍵であって人生じゃないです。そんな、少女マンガみたいに目をキラキラさせないでください。
「ええ、ええ、あとは若いお二人でご自由に。長門さんはもう貴方の管理下に入りましたから。」
俺の言うことなんか聞かずに、そう言い残して喜緑さんは長門の部屋を出て行った。

 
 

「ありがとう」
長門は再び三つ指ついて頭を下げながら言った。
「貴方が受容してくれなかったら、私は消えていた。」
なに、いつもお前が頑張ってくれてることに比べたら、何でもないさ。
そう言って長門の頭を、ぽんぽん、と撫でてやった。
ん?どうした長門?お前、顔が赤くないか?
「私は貴方の管理下に入った。」
ああ、そう聞いた。
「私の行動には貴方の許可を必要とする」
そういうことになるのかな。
「私は貴方無しでは存在できない」
いや、そこまで考えんでも。
「だから、私は貴方のもの」
は?
「命令を。ご主人様?」
・・・・。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:31 (3047d)