作品

概要

作者Thinks
作品名春、土筆、川辺にて。そしてその後。
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-03-14 (土) 23:16:05

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 
〜春、土筆、川辺にて。そしてその後。〜
 
 
 ああ、春だよなあ。なんてな事を思えるのも、こうやってぶらつく事ができるからかね。
「暖かくなってきたけど、どっかで寝てたりしたら許さないからね! 啓蟄って言うくらいだから何かがいろいろと蠢き始めてるはずよ。今日は足元を良ーく探しなさい」
 そんな理由じゃなければな。と思っていた俺なのだが。
 毎週末、強制的に挿入される無茶で不条理なスケジュールではあるが、楽しみ方さえ理解してしまえばこっちのもんだ。開き直り? 上等だ。
 これは前出の台詞を受けつつも珍しく、五人そろって川縁を探索していたところ、全員が全員梅の花なんかに気をとられた挙句に、いつの間にか土筆摘み大会に事態が発展していたときの事、またその後の話だ。
 
 
「これ、た…食べられるんですか。何か粉みたいなの出てますけど…」
 朝比奈さんが土筆の入った袋を遠巻きに眺めながら言う。
「立派な山菜よ。でも灰汁が強いから一日かけて抜くって聞いたわ。だから今食べちゃダメよ、有希」
「………」
 長門は土手に生えた土筆をじーっと睨みながら突っついていた。三十秒ほどすれば口に入れていそうな雰囲気ではあるが、それは無いだろうよ。赤ん坊じゃあるまいし。
「へえ。シダ植物って食べられるんですねえ」
「みくるちゃん、ゼンマイとか食べた事無い?」
「え!?、えっと。アレって金属ですよね?」
「……その反応は嫌いじゃないけどね」
 うむ、嫌いじゃないですが、もどかしいにも程がありますよ。朝比奈さ…
 ん?俺の袖なんか引っ張って、どうした長門。
「…エグい」
 って、土筆咥えて何言ってんだよ。
 それがホントの摘まみ食いか……あのな、長門。食うなって言われただろ。ばっちいからやめなさい。
 
 
 ハルヒと古泉が朝比奈さんにゼンマイの説明を始めた時、長門がまた俺の袖を引っ張ってきた。どしたい?
「気付いている?」
「あ、いや。気付いていないと思う。何のことか解らんからな」
「………そう」
 長門が少し表情を変えた。と、視線を足元の土筆に向け屈んで指差し、
「………」
 無言で指差し、軽く頷く。
 ………何がしたいのか解らない。
「とって」
 取るって、俺がかい。そのままおまえが掴めばよかろうよ。と思いながらも、俺も屈みこんで土筆を手に取ろうとすると、
長門は俺の耳元に口を寄せてきた。
 ここで俺は気付いたね。こいつは俺に何か告げたいことがあったんだと。だから俺も不自然にならないように土筆に手を当てながら、
「言ってみろ」
 と小声で言ってみることにした。
 
「ここ三週間、涼宮ハルヒの精神活動が活発化している」
 またか。ついこの間もそんな時期があったと言うのによ。
「…そうか。で、今度は何が気に食わないんだ、あいつは」
 俺は横目で、どうやら地面と小枝を使って図解をしているらしいハルヒを眺めつつ聞いた。見た目は普通っぽいんだがな。いつもながら。
「原因は明白。しかし、涼宮ハルヒから、その件に関する発言は無い物と思われる」
「明白なのかよ。それなら対処もできそうってモンだ。で、何が気に食わなさそうなんだ?」
 と訊いて見たら、
「………」
 土筆を丁寧にもぎ取っていた様子の長門は既に立ち上がっていて、片手に提げたビニール袋にそれを突っ込むとすたすたと歩き出していた。
 待てよ、と声をかけようかと思ったら、それは言葉に出す前に眼で止められた。ちょっと怖いからそれ。できたら止めてくれ。
 仕方が無いので何故か川で泳いでいるカルガモの親子を眺めていた古泉に訊いてみようか。
 
 
「既に危機は迫って来ていた、そう言う事なんですよ」
 春の陽気に襲い来る眠さをこらえつつ桂馬を2六に打った時、古泉がそう言って局を止めた。
「何だよ藪から棒に……ってほどでもないか。しかし、待ったは無しだ。誤魔化しても無駄だぞ」
「もしかして先ほどお伝えした事もお忘れで?」
「いいや。忘れちゃいないが」
 何故か携帯将棋板なんかを所持していた古泉と一局指す流れになってしまい、そうしていたらこんな話になっていて。
 口に出して見たものの。いや確かに忘れちゃいなかった。俺にも考えが無かったわけじゃ無いんだ。何か返すくらいの事は、な。
「ほう、あなたには具体的な対策があると?」
 古泉は飛車を前に進めると話も続けてくる。いや、まあ自信は無いけどさ。
「ちゃんと考えてください、でないと……」
「ああ解ってるさ。そんで古泉。おまえは何か考えてるのかよ」
「あ、王手です」
 おまえこそすっとぼけてるじゃねえか。で、それ二手指しだから。初歩の初歩だろそれよ。
「あ」
 
 長門も言っていたように、ここ三週間。古泉は何度か夜のバイトに出動していたらしい。頻度だの規模だの疲れてるだのは口にしなかったから俺も訊かなかったが、二手指しの言い訳には最適だろう。
 出動せねばならない、即ちあの灰色空間が発生している。それは何故なのか。
 機関とやらの方でも思慮していたようで。そりゃま、アレと戦う実行部隊なんだから少しは考えるんだろうが。
 
 ハルヒは俺が思っていたほどさっぱりした性格ではなかったかもしれないと言うのが、古泉の推測を聞いた俺の結論である。
 チョコケーキを作り、それぞれのメッセージを考えて手渡しする。それまでの工程から俺らはハルヒの掌の上で踊ってたんだけれども。
 そんなイベントも、三週間前に終わったわけで。
 
 ハルヒは今日から一週間後に来る、その返礼を手にできるであろう日を、おそらくは誰よりも待ち望んでいる。……ようなのだ。
 あのハルヒが、だ。
 
 俺から言わせりゃ「らしく無ぇよな」の一言なのだが、
これをゼンマイは煮付けなんかでよく食べるものだと、形状から金属製のソレの名前が付いたことなんかを知った後の朝比奈さんに訊いて確かめたら、
 
「もういいですっ!! キョン君は女の子の事なんかちっとも解ってません!」
 
 本気で怒られてしまった。その日を「危機」と言う古泉も同じように叱ってくれりゃ良いのに。
 
 そんなもんで、朝比奈さんはもう、俺の言うことにしばらくは耳を傾けてくれそうに無い。
 真向かいに居る古泉にこれ以上を訊いたとしたら、両の掌を上に向けて、「僕に訊いても仕方が無いでしょう?」 なんて言うのがオチだ。
 そして俺は、この状況で当の本人に直接訊きに行くほどバカじゃない。……と言うか、朝比奈さんに、
 
「あのケーキは三人で一生懸命作ったんです。だから、黙っていても何かが何かで帰ってきたらって。……女の子って、みんなそうだと思うんです」
「あたし、気が付かなかったですけど。なにも言ってもらえなかったですけれど」
「……こんなこと、言われなきゃ、言わなきゃ解んないなんて……」
 
 そして続くは前出の台詞であるからして、これはきつーく止められたと思わざるを得ないよなぁ。などと考えつつ古泉が指す次の手を待っていたら、
「………」
 いつの間にか長門が横に立っていて、俺を見ていた。
「涼宮ハルヒに、あなたたちを呼んでくるよう言われた」
 気付けばもう夕方と呼んで良い時間になっていて、男二人はベンチで五局目を終えようとしていたわけで。
 古泉が次の一手を指す代わりに、「参りました」といって立ち上がる。
 どうやら朝比奈さんとハルヒは、結構上流のほうまで行ってしまっているようで、女子代表として長門が俺らを呼びに来たらしい。呼ばれたら行かねばなるまい。なにせ団長様だからな。と、俺も重い腰を上げて二人が待つ場所に行く事にした。
 
 ここで不意に、俺は川辺を長門と二人で歩くことになってしまった。
 古泉が「少し先を行きますね」 とのことで、両手を頭の後ろに組んだまま声が聞こえない程度の前方を歩いているからなのだが。
 気を利かせたか何かなのだろうが、…あからさま過ぎて困るわ。
 どうも女ってモノが解らなくなってきていた俺には、なんとなく厳しいシチュエーションだからな。
「………私を実験台にすると良い」
 そんな事を思っていたとき、長門からそう言われた。思わず風に揺れる髪の向こうの横顔を見る。だが言葉が出ない。
「わたしは、あなたたちとは違う存在。涼宮ハルヒと比較すると、感情にも乏しい」
 そう、前打って、
「ただし、判断ができない訳ではない。あなたが考える、涼宮ハルヒ…あなた達が言う”女の子”が喜ぶであろう返答に値する行動を、期限までに考え実行を願う」
 俺の顔を見ながらそんな事を言う。やっぱり言葉が出ない俺。
 
 ……違う存在、な。改めて言われさえしなけりゃ意識なんかしねぇんだけどさ。違うか、長門よ。
 
 
「遅い。みくるちゃんのお手製クギ煮、無くなっちゃうわよ」
 夕焼けの中、クギ煮をおかずにおにぎりを幾つか食べ、この日の探索は終わった。
 いつにも増して、不思議なんぞ見つかる気も見つける気もしなかったように思う。
「……おいひい」
 ああ、美味いな。だから、これからは調理したものを食べような、長門。
 
 
 そんなこんながあって。
 何か見えない圧力のような物を感じつつ、俺なりに試行錯誤なんかもして迎えた三月十四日。
 今日は件のホワイトデー当日である。
 
「ああ、ハルヒ。俺からはこれな」
 俺は例の物を、古泉が持ってきた缶クッキーを昼食後のデザートにしていた女子の輪の中に突き出してこう言ってみた。
「…何よ、これ」
 訝しげに俺の手から下がった袋を見るハルヒ。
「……義理でも恩で返すのが俺の主義だからな。一応、おまえらみたいに手作ってみたぞ」
 俺なりの返答は、既に長門に試してみていた事だったのだが。
 手作りのチョコケーキ。アレは美味かった、だから俺なりに自分で作ったもので、まあ、俺はそう、何か残る方が良いかと考えたわけだ。
 だからそんなモノになったんだがさ。ああ、しかしあの箱は取ってあるぞ。ちゃんとな。
 
 俺が片手で渡した小袋を手にしてハルヒが、
「……開けても良いの」
 と訊くから、まあ大したもんじゃない、と答える。ってか、勝手に開けりゃ良いんだよ。実際大したものじゃないし。川縁に土筆と一緒に居た小さな花を摘んどいて、小瓶に入れてドライフラワー入りストラップなんかにしただけの物だ。
 ようは、乾燥剤と一緒にビンに入れた花を放置していただけだから、実際にほとんど苦労なぞしとらん。
 小瓶とコルクと紐が存外に高価だったくらいだが、手作りチョコケーキほどじゃなかろう。
「タンポポ……ふふっ」
 ああ、そうさ。太陽みたいだからな、おまえは。脳天気とも言うが。
 
 朝比奈さんが少し表情を濁したように思えたが、長門も古泉も良い反応をしているようだから、これは成功だったのだろうか。
 三粒ほど突っ込んでおいたおまけの市販マシュマロを口にしながら、
「ん、ありがと。可愛いじゃないっ」
 なんて言ってるから成功だったのかも知れん。
 朝比奈さんにはこの花かなと思った俺は、レンゲソウの花を同じようにした物を渡した。出来上がってみたらあまり色が良く無いように思ったのだが、早速、鞄に取り付けるほど喜んでくれたから良しとしよう。
 
 さて。長門には、実験台ってくらいだから、このストラップドライフラワーの幾つかの試作品を見てもらっている。作り方も長門が何処からとも無く調べてくれた。
 構想段階でもそうだ。こんなのはどうだろうか、と言ったら無言で手を引かれてあの川縁に連れて行かれ、長門と二人でもう一度歩くことになって、そうしながらそこらに咲き始めた花を実際に見て、それぞれに渡す花を決めたんだからな。
 長門は、土手で結構見かけた、力強く咲いている青く小さい花を、小瓶にも入れ易そうだと採用しようとした俺に、
「その花には見た目に似つかわしくない名前が付けられている」
 などと、その都度に適切なアドバイスをくれた。
 何でだよ、と言ってみた俺はその植物に付けられた名前を長門の口から聞いて、そりゃ人に渡すモノの名前じゃねえわと納得したりした。
 ……あんな可愛らしく見える花にあんな名前を付けたヤツが悪い。
 
 そう言うわけだから、長門に渡す花については少し考えた。俺だけで決めんといかんからな。良く見ればあちこちにいろいろと小さいのからでかいのまで花は咲いている。迷うほど咲いている。しかし長門のイメージで言えば色は白か。と思ってからは速かった。
 小瓶の中の、乾いても白い花。俺が土手に群生して咲いていたこれを指差して、こいつはおまえのだな、と提案したとき長門は、
「そう」
 と一言くれただけで。まあいつもと変わらなかった訳だが。

挿絵

 
 ほらこれ。アレの乾いたヤツだけど、おまえの分な。
「………」
 やっぱり変わってなかった。ま、手伝ってくれてありがとよ。
 
 
 その日の放課後の事。いつもの団員そろっての帰り際に、長門が一枚の栞をくれた。
 その栞には、俺が渡したと同じ白い花。それはクローバーの花で、和名は白詰草と言うらしいのだが。
 そいつの押し花が施されていた。しかも四つ葉。縁起が良いじゃねえかよ。
「おまえも作ってたのか。ありがとな。しかし、お返しに同じ花ってのもなんか変じゃないか」
「そう?」
 ま、良いか。しかし我ながら、らしくねえ事しちまったわ。
「……そう?」
 なんてな会話を前方に聞かれないようにコソコソとやりながら坂を下りたのを覚えてる。
 
 
 後日。
「タンポポは花言葉を考えちゃうと、優柔不断だって思われちゃいますよ? あたしは、ちょっと嬉しかったですけれど」
 朝比奈さんからそんな示唆を受けた俺。  
「あたしが居る時代でも、花言葉ってあるんです。知らない人が選んでも、不思議とその意味があるからなんですって。くすっ」
 
 ……意味が解らなかった。花言葉なんざ意識して選んだ訳じゃないからな。
 もしかしてとんでもなく恥ずかしい事になっているのではなかろうかと気になったので、無人の団長席でもって検索しようとした俺を、長門が袖を引いて止める。
 どしたい? いや俺は花言葉を。だから調べるだけだって、外に行こうって? なんでだよ?
  
 
 
           「……四つ葉のクローバーの花言葉。知らないんだキョン君。やっぱりね」
 
 
 
 
 
    
「やあやあみくるみくる、四つ葉のクローバーの花言葉ってわかるっかい?」
「…ググれ」
「にょろーん」
 な、ネタバレコーナー。
 
 http://www.hanakotoba.name/ より。
  
 タンポポの花言葉      :「真心の愛」「神のお告げ」「愛の神託」「思わせぶり」「別離」
 レンゲソウ(ゲンゲ)の花言葉  :「心が和らぐ」「私の苦しみを和らげる」「感化」
 クローバー(白詰草)の花言葉 :「約束」「私を思って」
 四つ葉のクローバーの花言葉  :「幸福」「私のものになって」
 
 
 春先に土手なんかで青く小さな花を咲かせている植物の中には、その名も「オオイヌノフグリ」と言うものがある。
 実に可愛らしい花なので注意。(何にだよ。) 
 ちなみに、これの花言葉は:「信頼」「神聖」「清らか」「忠実」
 別名ホシノヒトミ、英名はBird's-eye。(らしい。)
 
 
 Special thanks to 166冊目>>53>>54 お題:「ホワイトデー」「ストラップ」 

 



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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:27 (1834d)