作品

概要

作者ちゃこし
作品名長門侍 ―後編(βルート)―
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-03-01 (日) 19:26:08

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

『長門侍』第五部 スタート

 

「行く気ですか?」
意識を取り戻した古泉が話しかけてきた。
ああ、長門をこのままにしておけない。当たって砕けろとも言うし、やるだけやってみるさ。
古泉は立ち上がると、言葉を続ける。

 

「会ってどうするんですか?
 長門さんが侍化してることは話せませんよ?
 もちろん長門さんが宇宙人だとか、そういうのは一切タブーです。
 もう一度聞きます。会ってどうするんですか?
 何を言う気なんです? 具体的な解決策があるんですか?」
古泉の顔がどんどん近づいてくる。こっちくんな。
なぜ目が潤んでる、頬が赤いぞ、と、吐息が・・くすぐったいだろうが!

 

「失礼」と古泉は姿勢を戻すと、
「少々興奮したようです」と微笑んだ。
長門、今のはセクハラじゃないのか、宇宙の平和的にアウトじゃないのか?
「・・ギリギリセーフ」
本当か?ジャッジが甘いんじゃないか?

 

「リラックスしてもらう為の単なる冗談です。
 何のプランも無い行動は事態を悪化させるだけです」
ずいぶんと偉そうな事を言うが、おまえだってさっきから解説だけのノープランじゃないか。
もう時間も無い、ここは行動あるのみ。
押してもダメなら引いては寄せる波の一念岩をも砕く、だ。
古泉は少し考える風な仕草を見せ、
「実は、解決策が無いわけでもないのです」と言った。
何だあるのか。なぜ早く言わない。もったいぶらずに言え、教えろ。
「成功させるには難易度が非常に高く、そして失敗した場合のリスクがとても大きいのです。
 最悪の場合、この宇宙そのものが消滅してしまうかもしれません。
 それでもあなたは、長門さんの為にそれを行う覚悟があると言えますか?」

 

ある。断言する。失敗した後のことより、このまま長門の侍化を見過ごす事の方が耐えられない。
「わかりました。長門さんにもわかってるとは思うのですが、
 長門さんの親玉、思念体からその手の提案が禁じられてるのでしょう。
 ただ傍観するのみで、わたしたちが行動する事にまで邪魔はしないと思われますが」
古泉はここで一旦言葉を切り、長門を見やると、反論がないことで同意を得たとばかりに言葉を続けた。
「なにぶんその方法には、長門さんの力が不可欠ですので。
 長門さんを元に戻し、宇宙侍をなかったことにするその方法は―」
その方法とは?
「涼宮さんを長門さんの刀で斬ることです」

 

ほう。斬る、とな。そりゃあ、さぞかしキレイだろう。
こう血がピューと飛んで、まわりを紅く染めちゃったり?
そう言えば、家の手伝いで庭に水まいてたりすると虹が見えたりするんだが、
赤い血だとどうなんだろう。
オレンジやピンクなんてカラフルな『赤の七色』が見えたりするのかな?かな?

 

「落ち着いて話を最後まで聞いて下さい。
 斬る、とは言っても、先程あなたもご覧になったでしょう。
 長門さんの刀は刃がついてる刀ではありません。
 要は涼宮さんが起こした情報フレアを涼宮さんに返すということです。」

 

『長門侍』第五部 「無策は無為て、いずれ果が結す」 完

 

『長門侍』第六部 スタート
 
古泉はホワイトボードに絵を描いて説明し始めた。
宇宙侍という情報フレアがこの世界を侵食してる事に疑いの余地は無い。
が、ハルヒの力から言ってもその進行が遅いという事実、それは異常な事であり、
そこに解決のヒントがあるのだと古泉は言う。 
従来通りのハルヒパワーなら面倒なプロセスはすべてふっ飛ばし、物理法則も、情報構成も、
そんなもの関係無しにとっくにこの世界は変わってるはずだと。
その原因としてハルヒの『絶対防壁』が考えられるというのが古泉の推論である。
おお、なんか本で読んでことがあるような設定が出てきた。
たぶん何でもはねかえす魔法のバリアだ。当りだろ?しかしネーミングがイマイチだな。
もうちょっと捻って、今風に『サイレント・マトリスク(沈黙の方程式)』なんてのはどうだ?
「・・・・・」
3人分の冷たい視線に耐え切れず、すみませんと呟く。

 

「エヘン、えー、この絶対防壁―通称デリート・レクイエムは3層構成と推測されます」
ちょっと待て、古泉。おまえ、それ絶対に今作っただろう。汚ねえぞ。
「静かにして下さい」と朝比奈さんにたしなめられ、この世の無常を噛み締める。
古泉は偽悪的な笑みを投げかけると、話しを続けた。

 

1層目は統合思念体によるハルヒ保護空間。
要は事故などで命の危険がないように守っているとのことらしい。
2層目はハルヒ自身による肉体防御膜、見た目は皮膚というか、そのものだ。
身体に勝手に触れるもの、傷つけるものを許さないってことだ。
最後は精神防壁。誰だって自分の心は守りたい。
今回はその最下層であるハルヒの心の部分、とりわけ無意識下での心の働きが、情報侵食を防いでいるとのこと。

 

「恥ずかしながらボクも含め、SOS団は今や涼宮さんにとって大事なものになっています。
 その大事な思い出も含め、長門さんの情報に触れること、
 心に異物が侵入することを彼女は拒んでいます。
 そしてそれは、長門さん自身をも保護しギリギリの攻防が続いているのです」
待て、古泉。その理屈で言うと、情報フレアを返したらハルヒもが情報改変されて、
結局ダメになるんじゃないか?
「いいえ、問題は返し方とそのタイミングなのです。
 コップから移した水をそのままコップに返す分には何の問題ありません。
 ただ失敗すると、周りに溢したり、水があふれたり、コップを倒したりしてしまうわけです。
 そうなると、どんなことが起こるかわかりません。」

 

ここまではいいですか、と古泉がオレに手に平を向け聞いてきた。
何でピンポイントでオレなんだ。つまりアレだ。聖剣で魔王の悪い心を退治するって感じだろ?
古泉がにっこりと微笑んだので、真似して微笑み返してみた。
「そこでここからが本題なのですが」
また無視かよ。
「簡単に言うと返す情報は長門さんの刀になります。
 そして返す方法はその情報を涼宮さんの身体に侵入させること。
 そして3つの防壁のうち、初めの2つをどうやって破るのかということなのです。
 まず第一の防壁ですが、これは長門さんの方で無効化してもらえると思います」
長門がかすかに首肯する。
「2層目は涼宮さんが身体に触れても拒否されない人物、つまりあなたが鍵となるのです。」
と、古泉はホワイトボードに描いたふたりの人物の、右に大きく丸印をつけるとオレを見つめた。
なんだと?
と言う事は左が長門か。絵が下手すぎだ、古泉。長門はもっとかわいいはずだ。
長門が大きく首肯した。
 
古泉が溜息をついたところで、話が長くなるのでポイントと作戦を簡単に述べておこう。
オレも理屈はわかっていないので問題ない。
普通に刀で斬ろうとしても第2の防壁がそれを拒むので直接斬る事は出来ないし、
倫理的にも問題がある。
そこでオレがハルヒの身体のどこかと接触し、その部分に刀を突き刺し、
ハルヒの情報フレアの核となっている情報をハルヒに戻すという段取りである。
偶然にも長門の情報操作刀はハルヒパワーを受けて具現化したものであり、
刀は武士の魂の言葉通り、そこには情報の核があり、情報操作も出来るしですべてに都合がいいらしい。
情報核を戻した状態で長門の顔を視認させ、ブレている長門の存在を確定。
ハルヒの見舞いをしつつ、SOS団全員で昨晩の反省会をして昨日の記憶を補完。
ちなみに3層目には手を出さないでいいらしい。
万が一にもそこを破ってしまうと大変な事になるようだ。
これで宇宙侍なるバカな情報改変は消えるという算段である。

 

なあ、古泉。ハルヒの手を握る役だが、朝比奈さんでもいいんじゃないのか。
あるいはおまえでも。
「朝比奈さんの身体に刀を突き立てるのが趣味ならそれもいいでしょう。
 それと残念ですがボクだと役不足です。 これはちょっと言い難いのですが、
 この件に関してその責任の半分はあなたにあることをお忘れなく」
そこまで期待されては、無碍に断る事は出来ない。
改めて言おう。
すみません。わたしがすべて悪う御座いました。その大役謹んで引き受けさせていただきます。

 

「そこで理想的な陣形ですが、長門さんの侍部分、
 つまり身体を隠した状態で涼宮さんに近づき刀を突き立てるには――」
――には?
「長門さんをおんぶしたあなたが涼宮さんに抱きつけばいいのです」
満場一致で却下となった。
理想とは常識を超えたところにあるのです、と古泉は負け惜しみを言っていたが、
結局のところ古泉案は廃案となった。
代わりに古泉と朝比奈さんが背後に長門を隠し、オレがハルヒの手を握ったところで隠れて刺す。という段取りとなった。

 

古泉が機関の車を提供してくれるというので、準備の都合もあり、
オレだけ一足先に校門前でみんなを待っていた。
而して全員が揃ったところでボックス車に乗り込み、ハルヒの見舞いへと向かった。

 

ハルヒの家は良くも悪くも普通の家だった。
もっとハルヒらしいこう奇妙奇天烈な、
湖畔に浮かぶ湖上の屋形と思ったら古城の館だったみたいなのを想像してたんだが。
「ガウディやウィンチェスター家の呪いの館じゃないんですから。さあ、参りましょう」
古泉の先導を受け、オレたちはハルヒ宅のインタフォンを押した。
この時、オレ以外の3人が示し合わせるようにお互いを見合っていたことを、
オレは不思議に思わなかった。

 

待つこと数十秒、いきなりお見舞いに訪れたオレたちをハルヒの母親は喜んで迎え入れてくれ、
古泉の如才無い挨拶の効果もあったのか、すんなりと部屋に案内された。
母親はハルヒにオレたちの来訪を告げると、
「お茶とお菓子を用意してくるわね」と部屋を出て行った。
早くもチャンス到来である。

 

4人で顔を突合せ、作戦開始の意思確認を行う。まずは段取り通り、オレがハルヒに声をかける。
ハルヒは寝ぼけてるのか「頭痛んだから、起こさないでよ」と言って布団を被り、目を覚まそうとしない。
もっとしっかり起こして下さい、と古泉に注意されもう一度トライする。
ハルヒ、おいハルヒ、起きろったら起きろ!と布団ごと身体を揺さぶり起こしてみる。
「う〜ん、だから頭痛いって。え?な、なんでキョンがいるのよ。あんた・・きゃっ」
突然、背後から押され前につんのめる。
ハルヒの顔横に左手、ベッドに枠に右手をつき、まるでハルヒに覆いかぶさるような体勢になる。
急いで身体を起こそうとしたが手足の自由を奪われ動けない。

 

「ちょっとキョン、何やってんのよ。こんなこと・・」
いや違うんだハルヒ。オレはみんなでお見舞いに来ただけで―
「みんな?あんた一人しかいないじゃない」
そんなバカなと後ろを見ると、古泉が背中を、朝比奈さんと長門が足や手を持ち、オレを押し倒そうとしている。
これは・・ハメられた。
いかに鈍いオレでもこの状況くらい読める。おそらくハルヒには長門の不可視防音シールドでも使ってるんだろう。
しかし、何故こんなことになっているのかまではわからない。
どうなってるんだ、せめて最低限の説明を要求する。

 

「この世界の為です」
「キョンくんごめんなさい」
「…」
そうじゃなくてキチンと教えてくれ。作戦はどうなったんだ。これにどんな意味がある。
「あの時と同じです」
「白雪姫です」
「…sleeping beauty」
またアレか。
一人の純情な少年の唇を何でも解決する必殺技と履き違えてるのか。
あの作戦もすべてウソだったんだな。
「ウソではありませんが、危険が大きすぎるのです。あくまでも理論上のことですから。
 そこでみなさんに相談して確実な方法を選ばせてもらいました。
 あなたには素直に言っても協力を得られそうも無かったので、
 黙ったまま強行することにしただけです。」

 

それを世間では騙すと言うのだが、もう罪悪感も無しか古泉。
しかし、もう他に方法も無いし、長門に残された時間もない。
ええい、ままよ。オレは覚悟を決めた。
「ちょっ、ちょっとキョン。あんた・・」
目の前で右往左往していたハルヒの手を握ると、オレは目を閉じ、そっと顔を寄せた。

 

「ダメ」
「やっぱりダメなのです」
「…えいっでござる」
今度はいきなり顔を捻られ、身体を振られ、見ると手に刀が突き立てられていた。
刺さった部分から眩しい光がこぼれ、あっという間にオレたちを呑み込んでいった。
なんなんだよ、いったい。

 

『長門侍』第六部 「逆転に次ぐ逆転は一周して元の木阿弥」 完

 

『長門侍』第七部 スタート

 

オレたちを包んでいた真っ白な光が薄れ、やがて視界が色を取り戻し始める。
網膜に映った景色は、さっきまでいたはずのハルヒの部屋ではなかった。
かつての朝倉涼子の情報制御空間やカマドウマ砂漠のような現実離れした場所。
いや、この雰囲気は例の灰色の閉鎖空間に似ている。。
そんなどこともわからない場所に、長門とオレ、呆けて座り込んでいる朝比奈さん、
そして古泉の4人がいた。
「やはり予想外の事が起こってしまったようですね。」
というか、予想外の事しか起こってないような気がするのはオレだけか。
もうどうにでもしてくれ。

 

「部室での説明を覚えていますか?
 涼宮さんの絶対防壁の3層目を破ったら、
 情報フレアが心に飛び込み大変なことになる、と。
 あなたとの接触で心まで無防備になった涼宮さんに刀が突き刺さったのです。
 ボクたちは彼女の心象世界へ、
 つまりモノクローム・プリズン(閉鎖空間)の大元に紛れ込んでしまったのですよ」
さすがハルヒの心理分析官らしく見事な解説だが、おまえも最後に裏切ってなかったか。
しかもそのネーミング、悔しかったのはわかったからちゃんと話せ。わかり辛い事この上ない。
古泉はとぼけたように肩をすくめると、
「お静かに。どうやら真打登場のようです」
と、指差した。その方向には・・
はぁ。もう驚くとかそんなのじゃなく、またかって気分なんだが。
その指差した先には、侍の格好をしたハルヒが立っていた。

 

事情を把握する能力がとっくにお湯の切れたポットのようにスカスカ状態なのだが、
古泉がありがたくも説明してくれる。
あの侍姿のハルヒが情報フレアの核であり、
あれを倒す=消滅させることで、この全てが解決するらしい。
負けるとどうなるんだ?
「情報フレアが完遂されて宇宙侍が誕生、
 ここにいるボクたちがどうなるかは見当もつきません。」
あれが最後の敵ねえ。

 

侍ハルヒは長門と同じく袴姿だが、黒い服のせいか悪役の雰囲気満々である。
おまけに不機嫌な時のハルヒのような仏頂面に加え、目が据わっていてけっこう強そうだ。
その侍ハルヒはふらふらと寄って来ると、すらりと刀を抜いた。
鋼色に光るそれは、どう見ても真剣にしか見えない。
「・・わたしがいく」
長門がついと先に出る。
鯉口を切り、抜き出した刀は先ほどまでの情報操作刀とは違い、真剣だった。

 

キン、と金属音が空気をつんざく。激しい斬合が始まった。
2人の刀がぶつかり合う、鼓膜に響く連打音と弧を描く光跡しか見えない。
長門、がんばれ。がんばれ長門。

 

白熱した応酬が数度続いた。しかし、すぐに長門が押されてきた。
理由は一目瞭然だ。ハルヒの一撃が長門より重く、長門が受け止めるだけで精一杯になっていた。
「このままでは不味い事になりそうです」
もう分析はたくさんだ。何とかする手段は無いのか、古泉。
「もう、あなたにすべてお任せします。長門さんもわかっているでしょうし」
古泉はそれだけ言うと朝比奈さんの横に座り込んで、二人で支え合うように身体を寄せあった。
こんな時に何やってるんだ。どうせならそっちを任せろ。
「あちらを」もうふざける場合じゃなりませんよ、と古泉は目で示す。
その目にはもう力が無かった。

 

長門がハルヒの打ち込みを受け、こちらに飛び込んできた。
その身体が倒れないように、全身で受け止める。
長門、古泉と朝比奈さんがおかしい。
それにこのままじゃ勝てないんだろ、オレに出来る事は無いのか。
「・・ある」
ハルヒの追撃を避け、長門から耳打ちされた言葉はとても信じられなかった。
それに何の意味があるんだ。
「・・ここは涼宮ハルヒの深層心理。
 いかに友人と言えども2人がいて許される場所ではないのでござる。」
ハルヒの攻撃から逃げながら、長門が話を続ける。
「・・今はそれがしが保護しているが、それももう限界。すべてをあなたに託すでござる」
長門の真摯な瞳に見つめられ、ここが正念場なんだと悟る。
「・・言って」
わかってる。こいつを信じられなくなったら人間をやめていいくらいに、オレは長門を信じてる。

 

オレは大きく息を吸い込むと、意を決して叫んだ。
長門から囁かれた、この事態を解決する魔法の言葉を。
「か、刀にな〜れ」

 

シーンという擬音が聞こえるくらい静かなこの空気。
何も起きないというか、古泉や朝比奈さんの肩が揺れてるのは笑っているのではないだろうか。
「・・ありがとう」
いや長門、何も起きて無いって。というか死ぬ程恥ずかしいのだが。
長門は腰を落とし、オレの左足首をあたりを掴むとひょいと持ち上げた。
え?えええ?!
疑問を口に出す間もなく、ハルヒの斬撃に向かってオレはまるで刀のように振り払われた。
ぶつかり合う瞬間、「死んだ」とさえ思ったが、オレの身体はハルヒの真剣を受け止めた。
不思議なことに、身体は切れて無いし痛みも無い。
見た目はそのままなのに、これは何がどうなっているんだ?

 

「・・わたしたちの戦いは、物理的なモノでは無い。
 侍ゆえに刀が視覚化されているが、その実は情報戦。
 彼女にとって不可侵的なものであるあなたが、刀になると宣言し武器化することで――」
襲い掛かる侍ハルヒの刃を、長門の刀がって、オレなのだが、弾き返す。
長門の一撃がハルヒのそれを上回っている。
いや、オレの一撃と言うべきか、オレが一撃と言うべきか。何てややこしい。
「攻撃は無効化され、侵食された情報は回復し、彼女=情報フレアは無に帰ろうとしている」
気がつけば長門はいつもの制服とカーディアン姿に戻っている。
逆に侍ハルヒはさっきまでの勢いもどこやらの、防戦一方。形勢逆転は火を見るより明らかだ。

 

「・・もう勝負はついた。今から最後の一撃を加える」
長門は中段から上段にオレを構え直すと、ツツっとすべるように踏み込み、跳んだ。
葉から零れる朝露の如く、真下に向かってすっと振り下ろされたオレは、ハルヒに思いっきり頭突きをする形になった。
ゴュィンンン・・
歯の奥まで響く衝撃音と共に、オレの意識は薄れていった。

 

『長門侍』第七部 「不条理に見えるは心の角度」 完

 

『長門侍』第八部 スタート

 

再び目が覚めると、そこは・・
高い天井、白い壁紙、大きな窓から見える月と――月のような表情をした長門。
何だいたのか、長門。
「・・起きた?」
見覚えがあるここは、そう、長門の部屋だ。
あのリビングのコタツに長門と二人でいるのだと理解するのに、数秒を要した。
頭がぼんやりとしていて身体も重い。寝たままの姿勢で長門に答え、問いかける。
長門、あれからどうなったんだ。それとも夢だったのか。いや、これが夢なのだろうか?
「・・大丈夫。すべて終った。今、後処理を施している」
よかった。
世界が救われたという安堵感、長門も無事だという安心感、
そして何かしらの役に立ったという満足感が、搾りかすのような身体に少し元気をわけてくれる。

 

大きく息を吸うと、重量挙げ選手のように全身に力を溜め、一気に起き上がる。
長門の前髪がちょっと驚いたように揺れ、その後の顛末を話してくれた。
情報フレアの影響はあの一撃で消え去り、ハルヒが以前の状態に戻ったこと。
倒れていた古泉と朝比奈さんはそれぞれの自宅に転送されたが、
深層心理との接触の件などもあり、この件に関する記憶すべてが消去されたこと。などなど。
この喜びを共有できる人間がいなくなったことは残念だが、
歴史には決して残らない1Pだし、このまま長門とオレだけの秘密にしておくのも悪く無い。
宇宙侍、いや長門侍か。今思うとけっこう似合ってたかもな、長門。
和服姿もなかなか乙なものだ。

 

「それはありがと。はい、お茶」

 

いきなりだが、みんなは侍というものを見たことがあるだろうか?
(中略)今オレの目の前にいるからである。何がって?長門侍に決まってるじゃないか!
しかも何かちっちゃいぞ!
「ちっちゃい言うな」

 

長門、これはどうなってる?まさかエンドレス・侍?
それとも七夕みたいに何度も同じ時間軸をやり直し修正するのか?

 

「・・落ち着いて欲しい。」
長門の声は淡々としていて、いつものように冷静そのものだ。
何事にも動じないその声を聞くと、不思議と少し落ち着いてくる。
「・・宇宙侍はあなたの発案であり、それが涼宮ハルヒの琴線に触れ情報核となった。
 思念体は消去による危険性を憂慮し、情報核の存続を選択。
 また、情報改変が長時間に渡りこの惑星を覆っていた為、
 消去による情報操作が膨大な量に及ぶ事。
 以上2つの理由により、処理方法は消去ではなく修正となった。
 宇宙侍はフィクションであり、米TVドラマとすることにした。」

 

寝てる間にそんなにややこしいことになっていたとは。
重ね重ねすまん、長門。
「・・そこであなたに一つ頼みがある。
 以上の情報操作はほぼ終っているが、ドラマ情報が空白のままになっている。
 簡単でいいのでそのドラマの脚本をあなたに書いて欲しい」
長門はそれだけ言うと、おじぎをするように静かに台に突っ伏した。
長門?おい長門!

 

「静かにして。有希ちゃんは休んでるだけ」
侍の長門が話しかけてくる。
小型な点を除けば本当に長門にそっくりだ。腰に差してるピコピコハンマーは何だ。
「昨日からずっと涼宮ハルヒの情報と戦い続けた上に、
 一日分とは言え、地球中の情報を修正してるんだよ。少しこのままにしてあげて」
それには同意せざるを得ない。無事ならいいんだ、ゆっくり休んでくれ長門。

 

「ありがと、それじゃわたしから補足説明しておくね。
 わたしは有希ちゃんも言ってたけど、宇宙侍なのでよろしく。
 身体は見ての通り有希ちゃんのコピー。
 性格もコピーなんだけどあんまり似てない気もする今日この頃だよ。
 言語モードが違うからそう錯覚してるかもだけだから気にしないで。
 設定では有希ちゃんと従妹で、NY生まれのハリウッド子役。
 事情があってわたしだけ帰国、北高に編入ってことになってるから」
ミニサイズとは言え、
長門がペラペラと表情豊かに話しているのは、違和感というより新鮮に感じられ興味深い。
この時のオレは喋る長門に気を取られ、実は大事なことを聞き逃していたのだがまあそれはいい。

 

「それじゃチャッチャと書いて」
何を?
「さっき言ってたでしょ。宇宙侍の脚本。それが無いと情報操作が終らないの。
 あんまりぜいたくは言わないけど、かわいく書いてね。一応大ヒットドラマだし。
 それと、夢と愛と勇気を忘れちゃイヤよ」
ニッコリ笑うチビ侍にプレッシャーをかけられ、オレは笑えず顔がひきつる。
オレが書いた脚本ドラマがウソとは言え『全米が泣いた』なんて作品になるとは。
変な汗が出てきた。
しかし、長門の為と思えばやれないことは無い。書いてやろうじゃないか、宇宙侍。

 

えー、基本設定は宇宙の平和を守るってことだったな。
「ドラマではね。今のわたしは愛の守護天使・長門侍」
はいはい。適当でいいんだ、さっさと書き上げてしまおう。
宇宙魔王:シュ・リューハが地球を侵略しようと迫っていた。
「最悪。ネーミングスセンス無いでしょ」
送り込まれた刺客Q・マユゲの魔手がNYを襲い、建物ごと人質に取られてしまう。
「NYにエッフェル塔は無いし、傾いてるのはピサね」
・・そこに現れた宇宙侍。彼女は夢と愛と勇気で地球を守る。
「そこはクライマックスでしょ、『刀にな〜れ』は言わなくていいの?」
・・・。
これでいいだろ。後はテキトーに侍ビームでも出しとけ。
「ひっどい脚本。何よ、ホーミングモード手裏剣って。忍者ものじゃないのよ?」
いちいちうるさいな。あいにくとオレは小説大賞を目指してる文学青年じゃないんだ。
文才も無いのに、世界の為に必死でアホな物語を書いてる単なる不幸な高校生なんだ、
放っておいてくれ。

 

「最後は可愛く書いて、『みんな幸せにな〜れ』が決めポーズね」
それにしても口が悪いというか、またそれを長門の顔で言うものだから、まさに憎さ倍増ってやつだ。
よし、最後を書き足してやれ。
ビルを壊した宇宙侍はママ侍にお尻をペンペンされました。おしまい。
「!何よ、それ。そんなのあんまりよ。」
悪い子におしおきは仕方ないだろ。言葉には気をつけないとな。さ、お茶でも飲むか。
「うー、自分は好きなコの気持ちにも気付かない鈍感のくせに」
何を言ってるんだろうね。はっはっは。ゴクッ
ぶっ。
「うわっ、きちゃない」
何だこの味は。そのあまりな味に口に含んだお茶を全て吹き出してしまった。
この湯飲みに入ってるのは何だ?。
「疲れてると思ってミネラルたっぷりの海洋深層水入りだよ。美味しいでしょ」
ホット海水なんか赤道直下の熱帯魚だって飲まんわ。

 

「もう!さっきから意地悪ばっかり。キョンくんのくせに・・キョンくんのくせにぃー」
みるみるうちに涙目になっていく。顔が長門だけにすごい罪悪感が襲ってきた。
「ごめんごめん、書き直してやるからそう怒るな。それにおまえも少しは」
「問答無用!涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希ちゃん。
 いっつもそう、女心がわからない人は成敗するでござる!」
ぶち長門が腰のハンマーを抜いて襲ってきた。しょせんは子供か。
そんなおもちゃで叩かれても痛くも何ともないのだが。
子供らしいかわいいところもあるじゃないか。
「えいっ」
避けるまでもないのだが、避けてしまった。大人気ない。ここは黙って叩かれて・・
ハンマーが当たったコタツ台が光の粒子になって消えていく。
これはいつか見た情報連結解除ってヤツでは?!
「ヒキョー者。潔く宇宙のチリになれでござる」
冗談じゃない、せっかくのハッピーエンドに一人だけ不幸になってたまるか。

 

「ござる、ござる」と連呼して追って来る長門侍からコタツを挿んで逃げてると、
長門が起き上がり、ぷち長門の襟を手で捕まえ
「めっ」と怒った。
怒られたぷち長門はしゅんとなってる。
オレも悪かったのだし、怒らないでくれ。それよりもう休んでなくていいのか。
ああ、オレたちが騒いだから起こしてしまったのか。すまない長門。ごめん。
長門は振幅小さく頭を振った。
「…違う」
長門は真っ直ぐに、光に彩られた漆黒の瞳をオレに向けた。
「…大事なことを忘れていた」
それは何だ?
薄い桜色の唇が、やさしく動く
「…ありがとう」

 

長門にそう言われて、長かった一日が本当に終わった気がした。
どういたしまして。これからもよろしくだ。
ぷち長門もよろしくな。
そういやすっかり忘れていたが、無事に終ったことだし、もう言ってもいいよな。
オレは今日の自分に労いと長門に感謝の気持ちを込め、感慨深くこう言った。
やれやれ。明日は平穏な一日でありますように。

 

『長門侍』第八部 「丸くなくても大団円」 終幕

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:26 (3047d)