作品

概要

作者ちゃこし
作品名長門侍 ―前篇―
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-03-01 (日) 19:16:13

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

いきなりだが、みんなは侍というものを見たことがあるだろうか?
武士、もののふとも呼ばれ、
時代劇でチャンバラシーンを演じてる刀を持ったちょんまげのことである。
士農工商で言うところの士であり、
かつて一世紀ちょっと前までの武家社会で頂点に立っていた特権戦闘集団である。
なんで唐突にこんな話題を振ってるのかというと、今オレの目の前にいるからである。
何がって?武士が、である。

 

部室に武士。まるで下手なダジャレだ。
部室にぶしつけに武士がいる。
何か早口言葉みたいになってきたが、これが今のオレの置かれている状況なのだ。
武士なんて初めて見るが、袴に帯刀、ちょんまげこそしてないが記憶にある限り幕末の志士そのものだ。
その侍と思しき人物がパイプ椅子に腰掛け下を向き、微動だもせずそこにいる。

 

足元右には朝比奈さんが倒れている。
見たところ血も出てないし、ケガもしてないようだから恐らくは気絶したのだろう。
いかにも彼女らしい。
横たわるその姿はさしずめ天使のお昼寝というところか。出来れば添い寝を申し出たい。

 

左側には古泉が倒れている。
血は出てないが口から泡を噴いてるので無礼討ちにでもあったのだろう。
峰打ちでよかったな、古泉。そんなとこで寝てると風邪ひくぞ。

 

さて、どうしたものか。
ハルヒのおかげで非日常耐性はかなりレベルアップしたが、さすがに絶句する。
武士にかける言葉など今まで考えた事も無いからな。まだ緑色の火星人の方がマシかもしれない。

 

せめて長門がいてくれたら。

 

いつもの窓辺のパイプ椅子にも長門の姿はない。
今日はハルヒも休んでいるし、頼りになる人間が誰もいない。
オレしかいないなんて、なんて心細い。
まるで回転寿司で安いネタだと思って食べたのに、
会計でそれが天然ブランド魚だとわかりドキドキしているオレの財布のようだ。
わかり辛い例えですまん。そのくらい焦ってるし心細いということだ。

 

往くも退くも出来ず、立てかけられた棒のように佇んでいると、その侍が顔上げ口を開いた。
「何をしている?遠慮せず座るがよい」

 

口は開くが、言葉が出てこない。魂が抜けるほど驚愕した。
その声には聞き覚えがあったし、というよりその顔は
「長門・・」
頭が真っ白になった。

 

『長門侍』第一部 「始まりはいつも突然に」完

 

『長門侍』第二部 スタート

 

何とか古泉と朝比奈さんを眠りから起こし、今は4人で長机を囲んでいた。
幸いにもと言うか、古泉がこの事態を把握していた。
こういう時には頼りになるヤツである、以下はその古泉の弁による。

 

昨日、オレたちSOS団御一行様は、不思議探索ツアーという名のカラオケ大会後、
二次会である長門のマンションに行く途中で立ち寄ったコンビニで、ジュースと間違えてアルコールの入った飲み物を購入し、酔っ払った。
ふむ、ここまではオレもなんとなく覚えている。
そこで本来の目的である宇宙人、未来人、超能力者が見つからないとハルヒの愚痴が始まり、
いやいるはずだ、それどころか過去人もいるはずだ、いるなら武士に会ってみたいという方向に話が向いていったとのこと。
それならいっそ、宇宙人で過去人だと面白いということで盛り上がり、気付いたら長門が侍の姿になっていた、ということらしい。
要は酔っ払ったハルヒのせいで現実が歪み、長門がその被害者になった、という理不尽な話。
挙句の果てに二日酔いのハルヒは学校を休み、そのあおりの神人退治で大活躍の古泉は、過労の為に力尽き部室で倒れていた、ということなのだ。

 

何ともはた迷惑な。まったくあいつはいつになったら大人しくなるんだ。
否、こういう奇々怪々で荒唐無稽なスパイスを他人の人生に無遠慮に振り撒くことこそ、ハルヒらしいと言うべきか。
とりあえずの危機回避として、すべての酒類にハルヒ禁止マークを貼ることを義務付けるよう、即刻酒造メーカーと話し合う必要がある。

 

「覚えてないようですが、半分はあなたのせいですよ。宇宙侍はあなたの発想です。
 涼宮さんはあなたの提案・賛同を得てそれを実現したいと思ったのです。
 それに事態はそんな軽口を叩けるほど楽観視出来るものじゃありません」
古泉の咎めるような笑顔が心地悪い。3人からの視線に良心が痛む。
確かに事態は切迫しているようだ。
古泉の話では侍になった長門は今日一日を侍として過ごしてる。
それをハルヒの身近にいるオレたち4人を除き学校の誰もが不思議に思っていない。
これは現代に侍がいるのが常識となりつつあることを意味してる。

 

長門、おまえの力というか、例の統合思念体の力で何とか修正出来ないのか。
「・・統合思念体は、今回のケースをとても興味深く注視している。
 観察の継続を最優先とする為、事態への直接介入は拒否するでござる」
という見解らしい。
言葉がおかしいのは言語データに武士言語辞書が干渉してるからで(何だそりゃ)
長門個人の力ではハルヒのとんでもパワーには現状維持で精一杯とのこと。
ハルヒが長門を視認した時点で長門侍は世界に固着されるとの事らしいので、タイムリミットは明朝までとなる。

 

焦る心とは裏腹に具体的にどうしたらいいのか、さっぱりわからない。
いつぞやの映画の時は、ハルヒがフィクションと認識する事で事態は収まった。ならば今回は酔いが醒めたら元に戻るんじゃないか?
「お酒のせいで常識に邪魔されず、妄想がここまで一気に具現化した、と見るべきでしょう。
 今の涼宮さんが宇宙侍の話を覚えているかも疑わしいですね」
頭が痛い。
オレのせいとは言え、ここまで深刻だとどうしようもない。
朝比奈さんのお茶を飲んで心を落ち着けよう。
そうだ朝比奈さん。未来的にはどうなんですか?過去に戻ってお酒を飲まないようにするとか出来ないんですか?

 

「うふふ。キョンくんに任せておけば大丈夫だそうです。
 ここ最近は問題もなく、がんばってるねって誉められちゃいました」
やっぱりそんなオチですか。未来が大丈夫と言うなら何とかなるのだろう。だが、せめて言葉だけじゃなく、ヒントの一つくらいは教えて欲しい。
「大丈夫は大丈夫ですよぉ。昨日の定時連絡では問題ないって言ってたので万事OKです。
 もっと自分を信用しましょう、ふふ」
昨日?今聞いたわけじゃないんですか、朝比奈さん。
今すぐ連絡取ってもらうわけにはいけませんか?
「何かあったら連絡が入るので大丈夫です。少しはあたしを信頼してください。連絡が無いってことは大丈夫な印なのです。うん」
満面の笑みで言い放つ朝比奈さんに、オレはもう何も言えなかった。
連絡が入らないくらいの緊急事態とは考えないのだろう。
横を見ると侍姿で思案に暮れる長門がいる。
せめて武士じゃなくお姫様にしておけば・・なんか泣きたくなってきた。

 

何もいい案が浮かばず、4人とも(朝比奈さんは違う気がするが)黙り込む。
その沈考の重い空気から飛び出すように突然、長門がイスから立ち上がり、ドアをバンと開け出て行った。
トイレか。今日は冷えるからな、ここは気付かない振りをするのが大人のマナーだ。
「何をしてるんです?追いましょう」
古泉に急かされて慌てて後を追う。長門は部室棟を抜け、教室の方へ駆けていった。
オレたちも走って追いかけるが、長門の足は速い。
長門が廊下の突き当たりを曲がると、空気を切り裂くような悲鳴が耳に飛び込んできた。

 

一瞬で血圧が上昇する。
「ながとーーーーーっ」
腕も脚もフル回転の中、オレは長門の名前を叫び全速力で走っていた。

 

『長門侍』第二部 「生まれ出る苦悩、そして途方に暮れる」完

 

『長門侍』第三部 スタート

 

廊下を脱兎のごとく走り抜け、
突き当たりを右へサイドステップ・ドロップキック・スライディング・ターンする。
素早く立ち上がり状況捕捉。
長門と女子生徒、それと廊下に座り込んでいる岡部先生の3人がそこにいた。
さっきの醜くも情けない悲鳴は彼のものだったらしい。                         

 

長門は「何をしてるんだ」とのオレの問いに一瞥をくれると、静かに腰の刀を抜いた。

 

「ひぃぃ」岡部がまたもや悲鳴をあげる。
「やめろ、長門!」
おまえはいったい何をやってるんだ。事情くらい説明してくれ。
「・・この世の悪を斬る」

 

すっごい答えが返ってきた。
長門らしからぬと言うより、こんなセリフはTV以外で聞いたことも無い。
長門、おまえはいつから時代劇調のヒーローになったんだ?
「予想はしていましたが、最悪の事態へ進んでるようです」

 

さすがだな、古泉。こんな事態なのに状況を把握してるなんて。オレはそろそろドロップアウトしたくなってきたんだが。
「まさか、あなたはそんな人ではありません。
 昨夜、宇宙侍は宇宙の平和を守るという使命があるとか話してたので、
 その通りになってきているのでしょう。
 長門さんでも防ぎきれない情報侵食が、始まってるようですね」

 

誰だそんな設定話を作ったのは、とはとても怖くて聞けなかった。
それに、きっとその犯人は今のオレのような顔をして反省してるに違いない。
そんな彼をどうして責められよう。
とりあえずここは止めなければ。
待て、長門。ああ、でもこんな時は何て言ったらいいんだ。思い出せ、時代劇を。
そうだ、あのセリフだ!

 

「長門殿!殿中でござる!」
「問答無用!!」
「ぎゃあああ」

 

やっぱり無理だったか。
でも刀に刃はついてないし、大丈夫だろ。
長門の抜いた刀には刀身が無く、『情報操作』という4文字熟語がビームサーベルのように現れていた。

 

腰が抜けてるのか、ヘタリ込んでいる女子に何があったのかを聞いてみる。
かなり動揺してるのか、そりゃ人斬り見れば驚くだろうが、彼女の説明はたどたどしく、なかなか要領を得なかった。
それでもある程度の概略はつかめた。彼女は部活の件で岡部から熱い指導を受けていたが、
あまりに一方的な為につい「先生のバカ、意地悪っ」と叫んでしまった。そこへ長門が現れてのこの始末であるようだ。
なるほど。岡部先生は熱血漢だからな。

 

意地悪はダメか、長門。
「ダメ」
ダメだそうだ。あなたには何の責任もありません、後はオレたちが処理しておくのでもういいですよと、彼女をその場から帰した。

 

それで長門、おまえは岡部教諭に何をしたんだ。本当に斬ったわけじゃないんだろ?
「女性に優しくないのは男として失格。よって男心を成敗つかまつった」
なぜかその語尾を聞くと泣けてくる。
本当にすまん、心から反省してる。
でだ。もっと具体的に言ってくれ。情報操作って刀にはあるが、何をどうしたんだ?
「単刀直入に言うと、女性の心になった」

 

何も言わず長門を小脇に抱えると、オレたちは部室に向かってUターンし、全力でダッシュした。
「う〜ん。きゃっ。ど、どうしてわたし」
背後で何か聞こえたが、声が遠くなってもう聞こえない。きっと気のせいだ。
岡部先生の新しい未来に幸多からんことを祈りつつ、オレたちは全身全霊の力を込め走っていた。

 

『長門侍』第三部 「与えられし使命を人は運命と呼ぶ」完

 

『長門侍』第四部 スタート

 

古泉とオレは長門を抱えたまま一目散に部室に入ると、すぐさまドアを閉め、カギをかけた。
「ふふ、みんなで鬼ごっこですか?」と朝比奈さんが笑って迎えてくれる。
いつもなら傷つき疲れ果てて帰ってきた兵士をも癒す、その天使のような声の音も、今は場違いな不協和音に聞こえるのはオレの心がささくれているからだろうか。

 

閉鎖空間の神人もやばかったが、この宇宙侍もかなりやばいんじゃないか?
意地悪ってだけでオカマになってしまっては、宇宙の平和どころか心の平穏さえままならない。
古泉、おまえのとこの機関はどうなんだ?当然この状況を良くは思ってるはずはあるまい。
オレも考えが無いわけではないが、おまえの意見を言ってみろ。勘違いするなよ、べ・・別にあんたの意見が聞きたいわけじゃないんだからねっ。
どうした古泉、ここは笑うところだぞ。

 

「落ち着いてください。そんなに自暴自棄になっていては、いい考えも浮かばないでしょうし、
 何より現状把握も出来ません。さっきも言いましたが、長門さんの情報汚染はかなり進行して
 います。もはや猶予はありません。
 このままだと今すぐにでも本物の宇宙侍になってしまうでしょう。
 昨夜のあなたの話では、宇宙侍は悪を退治し、宇宙の平和を守る正義のヒーローということに
 なっていました。他にも光りより速く飛ぶとか、気は優しくて力持ちとか、
 マッハ3で歌うとか、いろいろ言ってましたが問題なのはヒーローという点です。
 わかりますか?ヒーローです。」

 

繰り返されなくてもヒーローくらいわかる。つい先刻、その活躍の場も見たしな。それともヒーローだからM78星雲に帰るとでも言うのか。
「はい。それも言ってたので間違いないでしょう。
 ただし涼宮さんは地球での出会いを希望してたのでそれはまだ先のことでしょうが。
 それよりわかっていないようなので、もう一度言います。
 ヒーローは男ですか?女ですか? 」
まさか・・長門が男になってしまうと?そんなことありえない。ありえるわけないだろ!

 

「長門さん、答えてください。その可能性はどれくらいですか?」
「・・100%」
「やはりそうでしたか。見てください、彼女の胸を。かなり侵攻してるようで、これだけぺったんこ―」
ガン!
長門の居合い切り一閃。刀は見事に後頭部に直撃し、古泉は倒れた。
今のはただ叩いただけだよな?
「・・現在のところ肉体への情報侵入は完全に阻止している。
 しかしこれももって1時間くらいだと推測される」
と、後を取って長門が説明してくれた。
それじゃ本当に・・。
何てことをしちまったんだ、この大バカものは。もう悔やんでも悔やみきれない。長門に詫びる言葉さえ見つからない。自分のバカさ加減に反吐が出る。
朝倉涼子のナイフで死んでいたほうがマシだ。全身ナイフだらけにされてもオレは自分が許せる気がしない。

 

落ち込みうなだれるオレに長門が話しかける。
「・・わたしのことなら心配しないで欲しい。
 これで思念体の目的である涼宮ハルヒの力の解析が完了するかもしれない。
 また前向きに考えれば悪い事ばかりではない。
 わたしは観測者という立場から離れ、自立した行動が取れるようになるかも知れない。
 だから・・」

 

何を言ってるんだ、長門。悪いのはすべてオレだ、オレの責任なんだ。
オレのバカな思いつきのせいで宇宙侍なんて得体の知れないモノになっちまった挙句、
男になって宇宙で一人きりで暮らすようになったらどうするんだ。
自立?自立なんてもうしてるじゃないか。おまえはおまえ、長門有希なんだよ。
この宇宙にオレの知ってる長門有希はおまえだけだ。

 

長門の唇が何か話そうとするのを制止し、オレは決意した。
もう時間が無い。何の策も無い一か八かだが、ハルヒに直接あってこのふざけた世界を元に戻す。出来るか出来ないかなんて考えても仕方ない。
追い詰められ絶望したベジータだって超サイヤ人になれたんだ、それならオレにだってやってやれないことは無いかもしれない。そうだろ?

 

・・・・・・
オレは、古泉がいないと誰もつっこんでくれないさびしさをひしひしと感じていた。
「ベジータって野菜ですよね、ふふ」
いや、もういいですから朝比奈さん。

 

『長門侍』第四部 「抗うことは笑うことにも似て」 完

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:25 (2704d)