作品

概要

作者ながといっく
作品名A Cinderella Story Suddenly Begins
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-02-26 (木) 18:33:29

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

『大変お待たせしました!続いては本日の主役の登場だ!』
 司会者の一言で一気に熱を帯びる会場。男女を問わず湧き上がる歓声。
 この会場にいる全てが、これから出てくる人物を目当てに来たことが一目瞭然であった。
『200x年にデビュー曲の"雪、無音、窓辺にて。"がスマッシュヒット!
 続けて"純白サンクチュアリィ"、"君がくれたあの日"、"too late? not late"などの大ヒット曲を連発。
 その神秘的なルックス、透き通る歌声で、彼女はデビューからわずか1年でスターダムの頂点に上り詰めました。
 彼女の人気は日本に留まらず世界中に波及し、「長門は俺の嫁」が世界中の流行語となるほど。
 なんと今回は未公開の新曲を披露してくれるそうだ。それでは歌っていただきましょう、長門有希で"Greed's accident"!!』

 
 

「振り向いても気がつかない そんな言葉…」

 

 ……………
 …………
 ………
 ……
 …

 
 

 某県某市、涼宮プロダクション――

 

 俺の名はキョン。しがない社会人である。
 とある芸能事務所に勤めている。名前『涼宮プロダクション』という。
 ご想像の通り、涼宮ハルヒが立ち上げた会社だ。
 つい先日まで零細芸能事務所として明日の行く末すら見えなかった我が社。
 それが今や超大物アイドルを抱える新進気鋭の芸能プロとして、飛ぶ鳥をも落とす勢いである。

 

 それでは今までの経緯を説明しよう。
 高校卒業後、俺達SOS団はそのままのメンバーで涼宮プロを立ち上げた。
 うちが目玉として売り出したアイドルはもちろん朝比奈さんだった。
 理由なんて聞くまでもないだろう。顔もスタイルも抜群。
 かつてハルヒが彼女を拉致ってきた理由も、その凝縮された『萌え』である。
 そんな不動の北高No.1アイドルだった彼女をそのまま人気アイドルに仕立て上げようという魂胆だ。
 各方面への根回しも念入りに行い、アイドル『朝比奈ミクル』は盛大にデビューを飾った。

 

 ところが、俺達の予想に反して朝比奈さんは大成しなかった。
 グラビアやイメージビデオの売れ行きはすこぶるいい。
 しかし、"歌って踊れる"アイドルとしては売れなかった。

 

 その原因は――各々が所持するCDやゲームで確かめてみてほしい。

 
 

 その次は朝比奈さん、古泉、そしてハルヒの三人組バンドユニット"SOS"で売り出した。
 ルックス抜群な朝比奈さん、柔和な笑顔がウリの古泉。
 そして勝ち気の美女であり、歌唱力もあり、おまけに若社長でもあるハルヒ。
 話題性は十分であり、なかなかの注目を受けていたのだが――

 

「ちょっと!?何よこの演出!あたしたちを何だと思ってんのよ!」
「なによあんたうるさいわね!大御所だからってなめるんじゃないわよ!?」
「あんたたちは黙ってあたしについてくればいいのよ!」

 

 団長様があちこちで起こすトラブルが全てを御破算にした。
 テレビ局の人、先輩芸能人、更にはファンと、誰彼かまわず噛みつくハルヒ。
 我慢とか忍耐とか妥協とかいう言葉が涼宮ハルヒの辞書には存在しないということを、改めて実感させられた。

 

 芸能界という世界はいたって厳しい。
 たった一つの失言で窓際に追いやられるような世界だ。
 昔、某人気女優が記者会見でとった態度が原因で、半ば引退状態に追い込まれたことは記憶に新しいだろう。
 いくら話題性があっても扱いにくければそれまで。SOSが干されていくのは時間の問題であった。

 

 アイドル『朝比奈みくる』は売れず、バンド『SOS』は干され、涼宮プロの経営は悪化していく一方だった。
 それにも関わらず、ハルヒは相変わらずの放漫経営を続けやがった。
 新しい企画とその準備にばかり金を浪費し、資金繰りは難航。もはや倒産は目前。
 ハルヒ以外の社員の誰もが、次の就職先に頭を悩ませていた。

 

 そんな火の車のわが社の、文字通りの救世主となってくれたのが――

 

 長門有希だった。

 
 

 長門有希。
 ハルヒを観察するために情報統合思念体に作られたヒューマノイド・インターフェース。
 俗にいう、宇宙人である。

 

 涼宮プロ結社後、長門は主に実務面で活躍していた。
 その功績は非常に大きく、長門がいなければ会社が回らないと言っても過言ではないほどであった。
 社員のスケジュール管理、会社の財政管理、取引先との交渉、契約の決裁、さらには朝比奈さんのマネージャー兼ボディーガードに至るまで、長門は全てを完璧にこなしていた。
 高い金を出して秘書や警備員を雇ってもこれだけの仕事はできないだろう。
 表舞台には現れないが縁の下の力持ちであり、陰の実力者。
 それは高校時代から変わらぬ長門のポジションであった。
 そんな長門をアイドルとして売り出そうと思う者がいなかったのも必然であった。
 ところが、運命の歯車というものはひょんなことで回り始めるものらしい。

 

 全ての始まりはインターネットだった。
 巷では便所の落書きと称される某掲示板群の、ある一つのスレッド。
 『朝比奈ミクルを応援するスレ』という朝比奈さんのファンが集まるスレに、"それ"は書きこまれた。

 

532 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:14:00 ID:JRJ51Q9K
朝比奈ミクルのマネージャーが可愛すぎる件について。
ttp://nagamochi.info/src/upxxxxx.jpg

 

533 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:14:49 ID:JXLLcGld?
誰だよこの娘?

 

534 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:16:34 ID:KiSKnsD9
ちょっと涼宮プロ行ってくる

 

535 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:17:05 ID:pVIlXUBF
いま涼宮プロのHP覗いてきた。
長門有希っていうらしい。

 

536 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:20:05 ID:JXLLcGld?
長門さんっていうのか。涼宮プロはこんな可愛いコを隠し持ってやがったのか。

 

537 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:21:33 ID:FCXVT8yH
>535
いい名前だ。雄大なイメージを思わせる長門型に、希みが有ると書いて有希か……。
長門有希さん……。まさに思った通りの清澄で未来の可能性に満ちあふれた姓名だ。
凡庸でもなく、かといって突飛すぎてもいない。俺のイメージ通りじゃないか。

 

538 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:49:47 ID:p9KiIYs4
なんだ…この光り輝くようなオーラは……

 

539 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:53:25 ID:JXLLcGld?
女神様だ…
クールな顔に浮かびあがる大いなる神のような知性と理知…

 

540 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:200x/02/19(木) 00:54:35 ID:YnhyWJtC
生まれて初めて嫁にしたいと思える三次元女に出会った


 

 どこでどういう風に撮られたのかはわからない。
 おそらく朝比奈さんの追っかけか何かが撮った写真なんだろう。そこに長門が写っていたのだ。

 

 その些細なきっかけが電脳世界の住人達に火を付けた。
 アイドルを影でサポートするクールな美少女の噂はで瞬く間に広がった。
 発祥スレはpart1000を超え、掲示板だけではなくブログやSNSでも長門の噂で持ちきり。
 ついには、あちこちに長門のファンサイトが乱立するようになった。
 アイドルのファンサイトではなく、"アイドルのマネージャー"のファンサイトである。

 

 ネット発の話題はやがて、テレビやラジオ等の他メディアにも取り上げられるようになった。
 こうして朝比奈ミクルのマネージャー"長門有希"の名は広く知られることになる。
 自転車操業火の車の涼宮プロはここぞとばかりに長門を売りだし、そして――

 

 アイドル"長門有希"が誕生した。

 
 

 今更言うまでもないことだが、長門は万能宇宙人である。
 ハルヒの豪快で迫力ある歌声とはまた違う、水晶のように透明で綺麗な歌声。
 どんな難解な振り付けでも一瞬で覚える記憶力と、完璧に踊りこなす運動神経。
 歌だろうが踊りだろうが、長門に死角はなかった。

 

 唯一の欠点と思われたのは対人コミュニケーション能力、要するにトークであったが、
 クールな美少女という第一印象のお陰もあって、長門の無口さや寡黙さは概ね肯定的に受け止められた。
「そう」とか「ユニーク」とか原稿用紙一行分に満たない言葉でも、長門の意思は十分に伝わっているようであった。
 もともと長門は無感情なわけでもぶっきらぼうなわけでもない。ただちょっとだけ、感情を言葉にするのが苦手なだけなのだ。
 それを俺達以外の人間が理解してくれたというのは、俺としても嬉しいことだった。

 

 予想外、想定外の出来事はまだまだ続いた。

 

 皆さんはご存じだろうか。
 日本人が西洋人の茶髪や金髪に憧れるように、西洋人も日本人の黒髪に憧れるということを。
 艶やかな黒髪は清楚であり、神秘的なイメージがあるからなのだそうだ。
 無い物ねだりであるとか、隣の芝は青いという言葉は全世界共通であるらしい。

 

 少々悪い言い方になるが、長門は決してスタイルの良い女性ではない。
 小柄で華奢で、とにかくスタイルのいい外国人のモデルにはいないタイプだろう。
 人形のような姿の長門が、外国人の目には新鮮に映ったのかもしれない。
 そんな風にして、アイドル"長門有希"の評判は「東洋の神秘」として世界中に広まっていった。
 ハルヒはこれを機とばかりに世界進出を企て、長門有希ワールドツアーが開催される運びとなった。

 

 長門は世界中どこへ行っても最大級の歓迎を受けた。
 ブラジルではリオのカーニバル並のパレードが開かれ夜通しの歓迎会だった。
 中国では会場の天安門前広場に人が集まりすぎて人民解放軍が出動する騒ぎになった。
 インドでは数百匹の象が出迎えてくれた。本場のカレーに長門は大満足だった。
 イタリアでは国中の男が港に集まって大パニックになったそうだ。
 途上国を回ったツアーでは長門見たさに全世界から人が押し寄せ、観光産業が潤ったという。
 事務所に各国政府からの感謝状がわんさか届いたりもしたな。

 

 そして、ワールドツアー終了後の凱旋コンサートが日本で行われたところで、ようやく冒頭に戻る。

 

 …
 ……
 ………
 …………
 ……………

 

「よくやったわ有希!観客動員数の日本新記録よ!」
 腕章の文字が団長から社長に変わったハルヒが満面の笑みで長門を褒め称える。
「……そう」
 それに対し、全くといっていいほど喜びを感じていなさそうな長門。
 高校生からアイドルに転身しても相変わらず無口なままだ。
「全世界生放送の視聴率も90%を越えたそうよ。大快挙だわ!」
 90%て。オリンピックやワールドカップも涙目だろうな。
 一体何億人が長門に釘付けだったのやら。
「はわわっ。アメリカ合衆国大統領が今度会談をもうけたいと!」
「バチカンのローマ教皇からコンサートの依頼が届いていますね。
 それと、日本政府より国民栄誉賞授与の打診が来ておりますがいかがしましょう」
 今や長門のスポークスマンと化した朝比奈さんと古泉が報告を述べる。
 事実上の世界最高権力者とキリスト様の代理人からのご要望のようだ。
 そして、実は俺にもその手の打診が来ている。
「アラブの石油王がプライベートライブを希望してるな。油田を一つ譲ってもいいそうだ」
 石油王て。油田て。自分で話していて頭がおかしくなってくる。
 アラブの油田一つって、一体何千億円の価値があるんだ?

 

 俺達の報告を聞いたハルヒはとても満足そうに、
「とっても結構!検討しておくと伝えておきなさい!」
「おい、ちゃんと長門の意見も聞け。働いてるのは長門なんだぞ」
「いいみくるちゃん?よ〜くわかったでしょ?顔とおっぱいだけじゃ限界があるの。今求められてるのは歌でありダンスなのよ!」
 やっぱり聞いちゃいねえ。
「は、はい…すいません、涼宮さん…」
 ハルヒの言葉にしゅんとなってしまう朝比奈さん。
 ずっと一緒に過ごしてきた仲間で、学生としてもアイドルとしても後輩でもある長門が世界的な人気者になって、彼女も思うところがあるのだろう。
 でも、俺はこの先輩が努力家であることをよく知っている。仕事の合間を縫って歌の練習をしたり、ダンスのレッスンを受けたり頑張っていることも。
 その努力が実る日は、決して遠くないことを俺は信じている。
「気にしなくていいんですよ、朝比奈さん。
 誰でも得手不得手はありますから。ゆっくり克服すればいいんです」
 そういう俺に、朝比奈さんは優しく微笑んでくれた。やはりあなたは笑顔が一番ですよ。
 次に俺はハルヒに向き直り、
「だいたいそんなこというならお前は性格に問題がある。SOSは誰のせいで干されたんだ?」
「な、なんですって!?もう一度言ってみなさいよこのバカキョン!」
 唾をまき散らしながら声を荒げ、俺を鋭い目で睨みつけるハルヒ。
 こいつは高校時代から全く変わってないな。社長の威厳とか言うものが微塵も感じられない。
「まあまあ涼宮さん、こんなところで喧嘩しては人目に付きますし…
 それに長門さんもお疲れでしょう。今日はここで解散ということでいかがでしょうか」
 相変わらずの仲裁役である古泉がその場を納めてくれるのもいつものことだ。
 毎度すまんな古泉、俺も少しは大人気とやらを身につけるようにするよ。

 
 

ごく、ごく、ごくん。

 

「……飲んで」

 

有希も、飲んでる。
"Cool beauTEA"新発売!


 ホテルの一室。
 部屋備え付けのテレビを付けるとちょうど長門のCMが流れていた。
 ああ、念のため言っておくが同じ部屋で寝てるわけじゃないからな?
 明日の仕事の打ち合わせのために長門の部屋に来てるだけだ。本当だ。

 

 実を言うと、今の俺は長門の専属マネージャーということになっている。
 本当は本職のマネージャーを雇う予定だったのだが、何故か長門が俺を指名したのだ。
 もちろんハルヒはかなり難色を示したが、気の知れた人間がいいという長門の意見が通ってこうなっている。
 つまり、長門が気持ちよく仕事できるようにサポートするのが俺の仕事ってわけだ。
 そういうわけで、仕事の都合上、俺は一日の大半を長門と過ごすようになっていた。

 

「またお前のCMが流れてるぞ、長門」
 窓辺に立っている長門に声をかける。
 しかし酷い語呂合わせだ。クールビューティーとかけてるんだろうが…
「……そう」
 今やテレビで長門を見ない日はないと言っても過言ではない。
 お茶を飲んで一言喋るだけでウン億円のギャラだそうだ。

 

 しかし、俺としては心配なところがある。
 毎日のように撮影、録音、コンサートに追われ、睡眠も満足に取れないような毎日。
 どこへ行っても大騒ぎで、今の長門にプライベートなんてものは無いに等しい。
 俺自身、こいつがゆっくり本を読むところをしばらく見ていない。
 こんな生活では、さすがの長門でも疲れるんじゃないんだろうか。

 

「長門、疲れてないか?」
 俺の言葉に呼応するように、長門がカーテンと窓を開ける。
 外の冷たい風がふわりと入り込み、室内の温度を下げる。
「大丈夫。心配しなくていい」
 短い髪を風に揺らす長門。そしてその瞳に映る煌びやかな夜景。
 脳裏に懐かしい光景がフラッシュバックする。
 数年前の初夏、カマドウマ退治をした頃。そよ風に髪を揺らしながら本を読む長門の姿。

 

 俺はつい、今の長門をあの頃の長門と重ねて見てしまう。
 テレビに映るアイドルとしての長門は確かに輝いている。
 それでも俺の中では、長門有希は窓辺で本を読む少女のままなのだ。

 

 なにがそうさせたのか、いつの間にやら俺は長門の傍に立っていた。
 酒が入っていたこともある。魔がさしたんだろう。
 俺は長門にこんな問いを投げかけていた。
「長門、今の生活は幸せか?」
 きっと俺は否定してほしかったのだろう。
 黙って本を読んでいられた頃が幸せだったと言って欲しかったのだと思う。
 だが、返って来たのは望んだものとは違う答えだった。
「わたしはしあわせ」
「……そうか、変なこと聞いてすまなかったな。
 そりゃぁ、押しも押されもせぬ人気アイドルだもんな…」
「……違う」
 失望が顔に出てしまったのだろうか。長門が真摯な目で俺を見つめる。
 その口から出たセリフは俺の予想外のものだった。
「それは、あなたと一緒にいられる時間が増えたから」
「長門…?」
「あなたが笑いかけてくれるだけで、どんな仕事でも頑張ろうと思える。
 1000万人の歓声よりも、あなたが仕事の疲れを労ってくれる一言が嬉しい」
 そう言うと、長門はわずかに微笑んだ。
 また重なる。脳裏に浮かんだのは、あの改変された世界でのもう一人の長門の笑顔。
 "俺の"長門が"あの"長門と同じように笑ってくれている。

 

 それはテレビの中では絶対に見ることのできない、俺だけが知っている表情。

 

 もう、言葉はいらなかった。
 心地よい夜風が吹く窓際で、俺達は吸い寄せられるように互いの唇を――――

 

「KAKAKA隠し撮り〜っと!」
 鳴り響くシャッター音と眩しいフラッシュ。一体なんだってんだ!
 窓に張り付いているのは……谷口!?
「おいお前、何やってやがる!!」
「すまんな、俺も仕事なんだ!続きをごゆっくり〜」
 捨て台詞を残して谷口は闇の彼方に姿をくらます。
 ちきしょう!谷口の野郎め、しばらく見ないと思ってたらパパラッチになってやがったのか!つーかここ30階だぞ!?
「うかつ、気がつかなかった」
 申し訳なさそうなのか、それとも残念そうなのかよくわからない顔をしている長門。
 くそ、俺の責任だ。大失態だ。ああいう輩からアイドルを守るのが仕事だってのに…迂闊どころの騒ぎじゃねえ。
「長門よ、お前の情報操作でどうにかならないのか?大スキャンダルだ、大変な騒ぎになるぞ」
「……いや」
 なんですと!?
 驚きを隠せない俺をよそに、長門は想いを吐き出すかのように口を開く。
「わたしは……」
 静謐な二つの瞳が俺を射る。
 何かを懇願しているようで、それでいて決意を秘めたような目。
「わたしは、あなただけのアイドルでいたい」

 

「だめ?」
 よう、俺。
 世界中を敵に回す覚悟はあるか?

 
 
 

 それからは大変だった。
 長門有希の突然の引退宣言と熱愛報道で世界中は大混乱。
 全世界で万単位の抗議デモが起こったり、俺を標的にした自爆テロが起きたり、
 国連安保理で俺個人への制裁決議が可決されそうになったりと、毎日がもう大わらわ。
 ネットへの殺害予告なんてもう数えるのも飽きたくらいだ。

 

 内輪の問題もあった。
 大事なアイドルを失った上に、俺が長門を手篭めにしたとハルヒ社長は大激怒。
 顔を合わせるなり飛びかかってきて馬乗りマウントポジションときた。
 古泉がいなかったら死んでたかもしれないな、俺。

 

 その後、長門と二人でゆっくり話し合った末、ようやくハルヒも引退について納得してくれた。
 俺達の交際についても、いろいろと小言は言われたものの、応援してくれるということだった。
 こいつはこいつなりに長門のことを案じているんだよな。ありがとうな、ハルヒ。

 

 そうそう、涼宮プロの今後だが心配はいらない。朝比奈さんがいるからな。
 誰よりも努力家である彼女は、きっと花開く日が来る。
 いつか長門のような大アイドルになってくれるはずだ。

 

 まぁ、いろいろあったがそれらも全て過ぎたこと。
 今の俺、いや、俺達は幸せだ。幸せすぎて罰があたるんじゃないかと心配になるくらいだ。
 起こしてしまわないようにそっと、頬にキスをする。

 

 隣で静かな寝息を立てているお姫様。
 俺だけのアイドル、長門有希に。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:25 (1868d)