作品

概要

作者◆Yafw4ex/PI
作品名「くせ毛」
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-02-26 (木) 00:02:40

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 
 
 6月――
 久しぶりに顔を見せた親戚の様に自分の帰り時がわからないのか、延々と居
座る梅雨前線のおかげで、ここ数週間もの間俺は気持ちのいい青空って奴を拝
んでいない。
 登校途中、時折追い抜いていく教師達の車が跳ねる雨水を避けるのにも慣れ、
社会か何かの時間で教師が言った「日本は1年間の約4割が雨季に該当する」
ってのも嫌々ながらも納得せざるをえない展開だ。
「ったくそれにしてもよく降るよな……こんなに雨が続いたら、頭の中にカビ
が生えちまうぜ」
 隣を歩く谷口も、やはり一応は人間に分類されるらしく梅雨時となると多少
は大人しい。
 色で言えば限りなく黒に近い灰色の空をだるそうな目で見上げ、似合わない
溜息なんてついてやがる。
 本当……いつになったら止むんだろうな、この雨。
 誰しも多少は憂鬱になり、普段と違って見える事もある――そんな、雨の日
の事である。
 
 
 「くせ毛」
 
 
 木製の扉をノックして数秒後、
「はぁ〜い」
 梅雨の重い空気を掻き消すような天使的な声がドア越しに聞こえてきた。
 放課後の部室の中に居たのは声の主であるどちらかと言えば天使の朝比奈さ
んと、
「……」
 想像通りというか何と言うか、むしろその場所に居なければ不安になるので
はと思うくらい普段と同じ窓際で読書を続ける長門。
 この2人だけだった。
 あれ、ハルヒと古泉はまだですか。
 ハルヒはともかく、古泉が居ないってのは珍しいな。
「あの……古泉君は、えっと」
 朝比奈さんがお盆を胸に言葉を選んでいるって事はつまり……閉鎖空間か。
 ま、解る気もするけどな。
 ここ暫くの間、雨のせいでまともに活動できてないんだ。とはいえ、元々ま
ともな内容の活動をしてる訳じゃないんだから俺は別にそれでいいと思うんだ
が……あいつはそうは思わないよな。やっぱり。
 大丈夫です、解りました。
 そんなニュアンスを篭めて両手を挙げて首を横に振ってみせると、朝比奈さ
んは
「ごめんなさい。お茶、淹れますね」
 申し訳なさそうに笑って、茶器棚の方へとぱたぱたと歩いていった。
 閉鎖空間……か。古泉には悪いが、今回ばかりは何もできそうにないな。
 椅子に座り、やかんに向かって真剣な眼差しを向ける朝比奈さんのお顔を眺
めながら俺は小さく息をつく。
 ハルヒの面倒に巻き込まれてやるくらいは俺にもできなくはない、というか
逃げられないが、何せ今度の相手は大自然だ。
 長門ですら天気を変えるのは躊躇ってたんだし、ここはやはり古泉に耐えて
もらうしかないんだろう。
 窓を伝って流れる雨を見ながら、今度テーブルゲームで勝負する時は多少は
手加減してやろうか、等と考えている内に
「おまたせしました〜」
 明るい声と共に朝比奈さんのお茶が到着し、俺は古泉の事を綺麗に忘れた。
 ――暖かい湯のみを受け取り、感謝の意を表しながら朝比奈さんのお茶を頂
こうとしていた時、ドアノブが回される音が部室に響いた。
 続いて静かに扉が開けられる音。
 ……あれ、古泉が来たのか?
 そう思いながら入口へと視線を向けて見ると、そこには何故か不満げな顔の
ハルヒが居た。
「……何よ」
 自分に向けられた視線はそのまま敵意と見なす、そんな感じの威圧するよう
なハルヒの目に睨まれ
「いや、別に」
 俺は視線を前に戻し、お茶を飲む作業に戻った。
 ……大人しく部室に入ってくるから古泉かと思えばハルヒか……それにして
も、古泉がバイトに忙しいだけあってかなり機嫌が悪いらしいな。
 団長椅子に座ったハルヒは、朝比奈さんのお茶も無言で受け取って今はPC
のモニターに何やら好戦的な視線を向けている。
 しかし、モニターに意思がある訳は無く、もしあったとしても長門くらいし
か理解できない訳で、ハルヒは次の敵を求めて部室の中を見回していった。
 おいおい、頼むからここで暴れるなよ? 暴れるなら外で一人でやってくれ。
 ハルヒの視線が俺、朝比奈さんと続き、最後に窓際で沈黙を守っていた長門
に止まった。
 延々と読書をする長門の姿を、じっと見ていたハルヒの視線から――不意に
不機嫌さが消える。
 おい、何を思いつきやがったんだ?
 瞬時にそう、俺が心配を始めた瞬間。
「ねえ有希、髪の毛が跳ねちゃってるわよ」
 ハルヒは長門の後頭部を指差し、意外にもそんなごく普通の女子高生みたい
な事を言い出しやがったのだった。
 長門はハルヒの指摘を受け、数回瞬きをした後自分の後頭部へと手を当てて
いる。
「そのまま本を読んでていいわよ、あたしが直してあげるから」
 胸のポケットからコームを取り出しつつ、ハルヒは立ち上がるのだった。
 
 
「……有希の髪って本当に綺麗よね」
 椅子に座っている長門の後ろに立ち、ゆっくりと髪を梳いているハルヒ。
 そんな2人の様子を、俺と朝比奈さんはのんびりと眺めていた。
 ハルヒにされるがままになっている長門は、特に痛がる様子もなく読書を続
けている。
 なるほど、以前ハルヒが朝比奈さんの髪で遊んでいるのを見て、古泉が言っ
た感想は今こそ言うべき言葉だろう。
 こうして窓際に並ぶ2人はまるで――
「姉妹みたいですね。涼宮さんと長門さん」
 俺の向かいに座った朝比奈さんは、穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
 肯いて答える俺に、嬉しそうに微笑む朝比奈さん。
 ……こんな平和な放課後を過ごしたのは何時以来だ「おしまい! さ、次は
キョンね」もう終わりなのかよ。
 っていうか、その前に。
「……何で俺なんだ」
 誤解の無い様に言っておくが、別に朝比奈さんをいじればいいって意味じゃ
ないぞ? ただ、ハルヒが何故俺を指名したのかが気になっただけだ。
「あたしだってあんたの頭なんか触りたくもないわよ。でもね、そんなぼっさ
ぼさの頭で校内をうろつかれたらSOS団の恥だわ!」
 そうかい。
 人様に迷惑を掛けるような事はしてないと思うんだがな、少なくとも俺は。
「だーかーら。この団長であるあたしが直々に髪を直してあげるって言ってる
の。少しは喜びなさい、少しは」
 へいへい。
 妙にご機嫌で俺の後ろに歩いてきたハルヒは、
「で、どれくらい切る?」
 いきなり怖い事を言い出した。
「って切るのかよっ!?」
「冗談よ、冗談。さ、すぐに済むからじっとしてなさいよ」
 楽しそうに俺の髪にコームを入れ――いってぇ!!!
 脊髄反射で俺が立ち上がったのは、間違いなく痛みの為だった。
「な、何よ」
 思わずコームから手を離したハルヒだったが、コームは床に落ちずに髪に差
さったままだった。
「無理やり梳かすな! 髪が抜けるかと思っただろ!」
 っていうか実際に何本か抜けた感覚があったし、我慢してたら頭皮が剥げる
所だったぞ!
「あんたの髪が雀の巣みたいになってるのがいけないの。ほら、座んなさい」
「断固断わるっ!」
 この歳で髪の悩みは持ちたくないからな。
「あの、涼宮さん。キョン君は髪の量が多そうだし、ちょっとくせっ毛ですか
らコームじゃ無理だと思います」
 そう言って朝比奈さんが差し出したブラシを見て、
「ん〜……でも、これっていつもみくるちゃんの髪を梳くのに使ってるブラシ
だから、キョンなんかの頭に使うのは気が引けるのよね」
 ブラシを手に、ハルヒは無駄に真剣な顔で悩んでいる。
 何を迷う必要があるんだ? お前が俺の髪を梳くのを諦めればいいだけだろ。
 そんな俺の思考を受信したのか知らないが、
「そうね、じゃあみくるちゃんにしましょう」
 髪にコームを差した俺を残し、ハルヒは朝比奈さんの元へと楽しそうに歩い
ていった。
「え! あ。……はい」
 逃げても無駄だと思ったのか、もしかして……俺を助ける為なのか。朝比奈
さんは大人しく肯き、椅子に座りなおすのだった。
「……ん〜いい匂い。やっぱり触るならみくるちゃんの髪よね〜」
 朝比奈さんの後ろに立ち、髪に顔を寄せてご満悦なハルヒの意見に何一つ異
論は無い。
 できるならそのブラシになりたいくらいだ。
「じゃあいくわね〜」
 鼻歌混じりにハルヒの手が朝比奈さんの髪を梳き始めた時、俺は自分の背後
に誰かが立っている事に気がついた。
 振り向いた先にあった、無感情な顔。
「長門」
 いつの間にかそこに居た長門は、俺に名前を呼ばれた後ゆっくりと手を伸ば
してきて――俺の髪に差さったままだったコームを抜き取ってくれた。
 そして、対面で朝比奈さんの後ろに立つハルヒの動きを真似て手を動かし始
める。
「あ、有希もやってみたいの? そうね、キョンの頭ならどうなってもいいか
ら好きにやんなさい」
 おい、適当に請合うんじゃねーよ。
 ともあれ、長門がこうして人に何かをするってのは殆ど始めての事だし、多
少の興味もあって俺はそこから逃げようとはしなかった。
 片手を頭に添えて、ゆるゆると俺の髪にコームが当てられ僅かに沈み、下方
向へと動き始める。
 ……多分、長門は始めての経験だろうし、俺としては少しくらい痛くても我
慢するつもりだったんだが――意外な事に、長門に髪を梳いてもらう間俺は一
度も痛みを感じなかった。
 それは何故かと言えば、
「……ちょっと有希、そんなにのんびりしてたら日が暮れるわよ?」
 そうハルヒが言う様に、長門はほんの少しずつ髪を梳いてくれた為、朝比奈
さんの髪型が3回も入れ替わってもまだ俺の髪は梳かし終わっていなかった。
 ま……いいけどな。
 こうして長門に髪を梳いてもらうってのは、正直悪い気分じゃない。
 動かないようにと側頭部に添えられた左手と、ゆるゆると動くコームを持っ
た右手。そして、時折後頭部に触れる長門の身体……ってこれは、その。
 これって指摘していいのか? それとも黙ってた方がいいのだろうか?
 そんな俺の気持ちに気づいたのか、対面でハルヒに髪で遊ばれている朝比奈
さんは、俺の顔を見てくすぐったそうに笑っていた。
 
 
 数十分後――
「終了」
 長門はそう宣言し、俺の髪から手を離した。
「どれどれ? お〜……やっと綺麗になったじゃない」
 そうハルヒが言うだけはあって、スタンドミラーで確認した俺の髪型はそれ
なりに見えなくもない状態になっていた。
 驚いたな……正直、梅雨時は髪を直すのを諦めてたってのに。
「長門、俺って結構髪のくせが強いから大変だっただろ」
 すでに自分の定位置に戻っていた長門は、俺の言葉に首を左右に振る。
「キョ〜ン。有希があんたの為に一生懸命やってくれたんだから、ちゃんとお
礼をいいなさいよ?」
 言われるまでも無い、わざわざあの長門が俺の為にやってくれたんだもんな。
「長門。ありがとうな」
 そう俺が感謝を伝えると、長門は視線を下に落としたまま一言。
「いい」
 ……やれやれ、また寡黙な少女に逆戻りか。
 結局、何故長門が俺の髪を梳いてくれたのかは解らないが……まあ、長門な
りの理由があるんだろう。多分。
 梅雨が人の精神に色んな影響を与えるように、この読書好きな宇宙人にも何
かしらの変化があった――そうだな、そう考えればこの憂鬱な空もそれ程悪く
はないのかもしれない。
 窓の外に降り続く雨に苦笑いを浮かべつつ、俺は長門が直してくれた髪を撫
でながら自分の席へと戻った。
 
 
 「くせ毛」 〜終わり〜
 
 

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:25 (2711d)