作品

概要

作者◆Yafw4ex/PI
作品名「道路工事」
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-02-23 (月) 21:36:25

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 
 
 「道路工事」
 
 
 深夜、自室で読書に耽っていた時の事だった。
 もぎゅう。
 ページをめくる音以外は無音と言ってもいい部屋の中に、突然響いた悲しげな音。
 ……今のは何だろう。
 発信源はすぐ近くだった気がする。でも、音を立てそうな物は見当たらない。
 空耳という物、かも。
 左右を見回しても、やはり音源となりえる物が存在しない事を確認した私は、再び
読書に――もぎゅう。
 聞き間違いじゃない、確かに聞こえた。
 その音源は――私の中にあった。
 
 
 ドアを開けると深夜の冷たい空気が私を包み、部屋を出た事を私は早々と後悔して
いた。
 情報操作で食材を創る事も、空腹感を消す事もそれ程難しい事ではない。
 でも、彼は私に言ったのだ。
「ちゃんと食べろよ?」
 と。
 私は上着のボタンを上まで閉めて、真っ暗な街へと歩き出した。
 ――誰も居ない無人の街を一人歩く。
 何故だろう、昼と夜では太陽に対する地球の向き以外は普段と何も変わらないはず
なのに、意識が研ぎ澄まされる感じがする。
 ……少し、楽しい。
 上空へ視線を向けると多くの星が肉眼でも確認できて、吐き出された自分の息が白
い事に私は初めて気がついた。
 ……暗いからこそ、見える物もある。
 新たな発見に、私の足取りは軽くなった気がした。
 
 
 コンビニエンスストアーまでの最短距離を進んでいると、普段使っている道の途中
が工事中の看板によって封鎖されているのが見えてきた。
 今現在もなお工事をしているらしく、近づくにつれて作業音が聞こえてくる。
 こんな時間に仕事をするのは何故なのだろう。
 疑問の答えが出ないまま、私はバリケードの傍に
「すみません! この先は今工事中で通れませ……あ」
 バリケードの前に立つ私を見てやってきた、意外そうな顔をした男性。
 それは、白いヘルメットに防寒ジャンパー、その上に発光機能のある蛍光チョッキ
を着込んだ
「な……長門さん……ですよね?」
 古泉一樹だった。
 夜の挨拶は、
「こんばんわ」
 で間違いない。
「こ……こんばんわ」
 軽く頭を下げる私に、彼も続く。
「あの、もしかして何かあったんですか? 閉鎖空間の反応は感じられませんが……
もしかして、敵対勢力がついに?」
 緊張した彼の顔は
「違う。お腹が空いたからコンビニエンスストアーまで行く途中」
 私の返答によって大きく崩れた。
 暫く固まっていた彼は、やがて小さく震えだし……ついには声を殺して笑い始めた。
 ――何がおかしかったのだろう。
 自分の発言、行動を振り返ってみても、特におかしな点は見当たらない。はず。
 ここで出会ってから今に至るまでの行動を脳内で再現していると、
「すっすみません。……まさか、貴女がそんな事を言い出すとは思いもよらなくて」
 彼はそう言って謝った。
「貴方は」
「え?」
「貴方は、何を」
 私の質問に、彼は自分の姿を確認した後……溜息と共に笑った。
「今更隠しようも無いですね……ご覧のとおり、アルバイトの最中です」
「アルバイト」
「ええ。この工事区間に訪れる歩行者、並びに車両等に通行止めである事を伝え、迂
回路へ回ってもらう事。それが今の僕の任務です」
 古泉一樹は丁寧にそう説明して、小さく笑った。
 疑問がある。
 彼は機関の一員、私の知る限り資金面でアルバイトの必要性は見当たらない。
「何故、貴方はアルバイトをするのか教えて欲しい」
 そう尋ねた私に、彼は驚いた様だ。
 それは、私が彼の私的な事に対して質問したからなのか、私の質問がおかしな内容
なのかはわからない。
 でも、彼は暫く考えた後。
「実は今、買いたい物があるんですよ」
 楽しそうな顔で、そう答えた。
 やはりおかしい。
 彼にはその欲求を叶えるだけの金銭的余裕があるはず。
 疑問が解決できないでいる私を見て、彼は何故か微笑んだ。
 彼と、同じ様な顔で。
「……そうですね、自分でも僕は不合理な事をしていると思います。アルバイトをし
なくても目的を達成するだけのお金があるのに、どうして働くのか? そう、お考え
ですね?」
 そう。
 肯く私に、彼は肯き返す。
「例えばです。僕が欲しいと思った物があり……機関から得た資金から対価を支払い、
それを手に入れたとしましょう。欲求は叶えられ、満足する。これで終わりですね?」
 それが普通のはず。
「ここから先は理論的な話にはならないのですが、それでは嫌なんです」
「嫌?」
「ええ……何と言えばいいんでしょうか……フェアじゃない。そう、僕は思います」
 よく、わからない。
「貴方は常に危険と戦っている。その対価を得る事に、抵抗を感じる必要は無い」
 むしろ、誇りに思っていいはず。
「そうですね……長門さんの言っている事がきっと正しいんだと僕も思います。機関
のお金を生活費には使えて、嗜好品には使えないなんておかしいですよね。でも、理
屈だけじゃないんですよ。男っていうのは」
 笑いながら、彼はそう言った。
 その言葉を理解する事は、今の私には出来ない。
 でも、工事の照明に照らされた彼の顔は――決して、理解できない物ではなかった。
 不意に訪れる沈黙。自然と、私の足はその場を離れるように動き出す。
 私が立ち去っていくのを見て、
「お気をつけて!」
 彼は、私の背中にそう声をかけてきた。
 この星の男は不器用――でも、嫌いじゃない。
 コンビニエンスストアーで買う物のリストにホットの缶コーヒーを加え、私はまた
暗い夜道を歩き出した。
 
 
 「道路工事」 〜終わり〜
 
 

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:24 (3047d)