作品

概要

作者子持ちししゃも
作品名バレンタイン悪ふざけ編
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-02-23 (月) 01:47:55

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「今年のバレンタインは、それぞれで色々考えてきたのよっ」
 ハルヒが高らかに笑った。
 本日はバレンタインデーで、更に土曜日である。
 準備があるとかで、長門のマンションの前で古泉と俺は寒い中えらく待たされた。体の芯まで冷え切った頃、ようやく入ることを許された俺たち野郎共を迎えたのは、ハルヒの挑戦的とも言える笑顔だった。
 睨み付ける様な瞳に、口角がにんまりと上がった笑み。もっと普通に笑えば可愛くなくもないんだがな。

 

「今回のテーマは、思い出よっ!誰が作ったか、そんで誰宛か当てなさい」
 今回もなにも、バレンタインのチョコレートにテーマというものが元来必要だったであろうか。俺は思わず肩をすくめる。
 長門の殺風景な部屋の真ん中に置かれたコタツの上に、大小さまざまな箱が6個並んでいる。当てろというだけあって、箱からは特定出来ないようにだろうか、どれもシンプルな白い箱だった。
「当てなかったら今年のチョコレートは無いものと思うこと。いいわね」
 やれやれ、だ。
 全く、普通に渡すということが出来ないもんかね。俺はため息をそっとつく。隣の古泉は、面白そうに微笑んでいるだけだ。

 

「じゃあまず、これを開けてみましょうか」
 古泉は、真ん中手前の小さめな箱を開けた。
 出てきたのは、デフォルメはされていて可愛らしくはなっているが、どうみても昆虫の形をしたチョコレートだ。
 俺は古泉の肩をポンと叩く。
「これは古泉宛だな」
「……そのようで」
 よりによって、カマドウマかい。
 ふと女性陣を見る。あ、朝比奈さんが目をそらした。まさか朝比奈さん作とはと思ったが、ハルヒは知らない事だしな。長門と朝比奈さんのちらかと言われれば、なんとなくだが朝比奈さんが作ったといったほうがしっくりするか。
「朝比奈さん、ありがとうございます」
「い、いいいえ、すみません……」
 申し訳なさそうに朝比奈さんが頭を下げる。語尾も消えそうに恐縮している。
 あれは朝比奈さんにとって、とてもインパクトがあったんだろうな。それは俺も同じであり、気持ちはわからないでもない。しかしこれをバレンタインにもらう古泉には少し同情してやってもいい気がしないでもない。

 

「次はこれを」
 気を取り直したのか、その隣の箱を開ける古泉。
 四角く平べったいチョコレートケーキに上に、ホワイトチョコレートか何かの白い線で奇怪な幾何学模様が描かれていた。いつか見た、あるいは描いた覚えのあるような気がする模様。
 これは俺宛だ、とわかったものの、本当に俺宛でいいのかと戸惑う。あの七夕の日に、一緒に描いたのは俺だが、ハルヒにはあれは俺じゃなくてジョン・スミスということになっている。
 ……ハルヒはあの時いたのは俺だということに気付いてカマをかけているのか?
 ハルヒはじっと俺を見つめている。ただ、じっと。表情からは何も伺えない。
 どうするべきか。あまり長い考察は逆に不自然だ。冷静になれ、俺。
「これは俺宛で、ハルヒが作ったんだな。ありがとな」
 俺は答えた。
「中学の頃、お前が校庭にこんなような落描きをしたってのは有名だからな。それを知ってるのはこの中じゃ俺だけだろ」
 当事者だから、難しく考えすぎただけだ。ハルヒが中学時代にしたあれは周知の事実で、更に言えばここにいる全員が知っていることだろう。(朝比奈さんは怪しいが)しかしハルヒは、これを知っているのは、俺だけだと思っているに違いない。
「良く分かったわね。どうせあんたの事だから、谷口あたりに聞いてると思ったわよ」
 良かった。しかしこれが思い出なのか、ハルヒよ。
 そういえば、この模様って、ハルヒが考えた宇宙語なんだよなぁ。俺は隣でハルヒのチョコレートを眺めている長門に、小さく尋ねてみる。
「長門、これもいつかと同じ内容なのか?」
 長門はこちらを見た後、首を横に振った。
「これには、『あたしを好きにな』」
 ひそひそと話をしていた俺達に、ハルヒは耳ざとく聞きつけ、
「こ、こらっ、バカキョン!さっさと次を選びなさいっ!」
 大声をあげて邪魔をした。なんだか顔が赤い気がするが、気のせいということにしておく。

 

「はいはい、じゃあこれを開けるかな」
 適当に選んで開ける。古泉のチョコくらいの、小さめの箱だ。開けると中からは可愛らしい亀形のチョコレートが出てきた。
 同じ生き物をモチーフとしていても、カマドウマとは可愛さと親しみやすさが段違いだな。
「ありがとうございます、朝比奈さん」
 朝比奈さんは、にこっと笑った。一応、古泉の対として俺のも生き物にしたんだろう。
 それにあの亀事件というか一連の指令の時は、本当にお疲れ様でした、朝比奈さん。
 俺のお辞儀の意図を汲み取ったのか、朝比奈さんはもっと穏やかな笑みを浮かべてくれた。やっぱりあなたは笑っている方がお似合いです。

 

「それじゃ次だ」
 残りから適当に選んでパカっと開ける。それを見て、思わず俺はまた古泉の肩を叩く。
「長門さん、ありがとうございます……」
 丸くて、赤いケーキが入っていた。赤いのは何のソースだろう。
 さすがに古泉の頬はひきつり気味だった。おいおい、仮面が剥がれかけてるぞ。
 というか、チョコレート部分はどこだ、長門よ。
「ケーキの中央の層が、チョコレートスポンジ」
 だとよ。
「はは、そうですか、食べるのが楽しみです」
 元気出せ、古泉。

 

「後はハルヒの古泉宛と、長門の俺宛か。こっちはどっちかな」
 両方とも大きな箱だった。右手の方をなんとなく開けてみる。
 すると中からは、孤島に浮かぶ城が出てきた。
 丸いケーキの上に、チョコレートで出来た城が乗っているのである。
 ご丁寧に、ケーキは抹茶パウダーがかけられており、箱の底には青い色のシートが敷いてある。
「涼宮さん、ありがとうございます」
 これは立派なケーキだな。良かったな、古泉。
「古泉君、夏休み、とっっっても楽しみにしてるわよ!お城で合宿!最高の夏にするわよっ!」
 おいおいおい、思い出はどうした。
「これから作る思い出ってことよっ!」
 もう何でもありだな。しかし古泉、お城に当てはあるのか?俺の向けた表情で理解したのか、古泉は困った様に肩をすくめた。
 なんというかまぁ、頑張ってくれ。
 
「じゃあこれは、長門のだな」
 最後に残された一際大きな箱を開け、俺は絶句した。古泉もまた同様に唖然とした表情をしている。女性陣は準備で見てるのだろうか、落ち着いた様子だったが、それでもまじまじと見つめるくらいに、違和感のあるものだった。
 そこに鎮座ましましていたのは、大盛りのカレーライスだった。
 いや違う、カレーライスを模したチョコレートだった。
 ライス部分には、細かく刻まれたホワイトチョコレートが、ふわふわと雪のように重ねられている。その白い山の麓に広がる湖のごとく、ルーに擬態したブラックチョコレートがなみなみと注がれている。
 見た限りでは、ベースがケーキなのか、あるいは全部がチョコレートなのかも良くわからない。
 入れ物も深皿で、まさしくカレーライスだ。何故かスプーンが二つ添えられている。
 うず高く盛られたそれには、確かに覚えがある。朝比奈さんと俺がおろおろした去年の今頃、長門のマンションで食べたそれだ。

 

「ありがとな、長門。でもこれは、すごい量だな……」
 持って帰るのも大変そうなそれを見て、俺は思わずそうつぶやく。山盛りだし、削ってあるホワイトチョコレートが崩れかねない。しかも当たり前ではあるのだが、これはとても甘いのである。一気に食べられる量ではない。数日かけてゆっくり食べるしかあるまい。
 しかしそんな俺に、長門は事も無げに言った。
「問題ない。わたしが半分手伝う」
 そしてスプーンを指差す。ああ、それでスプーンが二個なのか。
「去年この部屋で、一つのカレーを二人で半分ずつ食べた。同じように、また半分ずつ食べる」
 ……あの、長門さん?
「キョン、どういうことかしら?」
 朝比奈さんも居ましたよね、長門さん。というか、半分ずつにしたのは、朝比奈さんの食べ残しでしたよね?長門さん。
 俺が思わず朝比奈さんを見ると、あろうことかマイスイートエンジェルはさっと目を背けた。その横でハルヒが、器用に目も口も三角にして、引きつった笑顔でのしのしとこちらに向かってやってくる。怖い、怖すぎる。オーラで角が見えるようだ。
 つい先日の節分で、「鬼は外」を言わなかったツケで、一年分の鬼がハルヒに凝縮されているんじゃないのだろうか。

 

「いや、その、長門、そんな事あったか……な……?」
 救いを求めるべく長門の方を見ると、長門は、
「あの後泊まってくれても構わなかったのに、残念」
 と、とどめを刺してくれたのだった。
 ななななななな長門さん?!
「キョ〜〜〜ン〜〜〜!!!!!」

 

 薄れていく意識の中で、俺だけが聞こえるような小さな声で長門がつぶやいた言葉が、
「去年の仕返し」と聞こえた気がしたが、そのまま俺は気を失ってしまったので、結局のところはわからないのだった。

 

 とりあえず、ハッピーバレンタイン。とでも言っておこうか。
 それから、あのカレーチョコは長門の部屋においておき、何日か通って二人できちんと完食したことも明記しておく。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:24 (1868d)