作品

概要

作者ちゃこし
作品名たまにはこんな一日
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-02-21 (土) 17:44:29

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

ある朝、目が覚め階段を下り1階へ向かうと、長門がキッチンで朝飯を作っていた。

 

どうしたんだ?とか、何をしてるんだ?なんて言ってしまうと
すべてなかったことになるような気がしたので、何も言わずにテーブルにつく。
妹は「有希ちゃん」なんて呼んでじゃれついている。
おふくろも長門がいることを不思議には思っていないようだ。
そうこうしている内に、温かい味噌汁とご飯に焼き鮭が食卓に並べられた。

 

これがグルメ番組なら「ご飯は魚沼産コシヒカリで、このふっくら感は釜炊きでむらしにワラを一つまみ入れましたね」とか、「この味噌の香りと甘みは熟成10年の白と赤を6:4であわせてますね」とか、
「このシャケは幻の鮭児ですね」なんて言うのだろうが、
生憎とそんな食通ではない。ないがうまいものはうまいので、素直に美味いと言ってみる。
長門が恥ずかしそうな仕草でうつむく。そんな長門を妹がしたり顔でからかっている。
おませな妹にツッコミの一つも入れつつ、ごちそうさまで朝食を終える。
部屋に戻り学校へ行く準備をして、玄関を出る。
二人で出る。

 

ここでもオレはどうなってるんだ?なんて野暮なことは聞かない。
自転車を小脇に抱え門扉を開け、道に下ろして乗る。長門がちょこんと後ろに座る。
そのまま駅へと漕いでいく。いつもの段取り、同じ風景、いつもと違う二人。
駐輪所に自転車を預け出てくると、長門が待っている。

 

どちらがあわせてるということも無く、二人で歩いていく。
途中クラスメイトと朝のあいさつを交わすが、誰も二人でいることにはツッコミを入れてこない。
長門の視線がカバンを持っていない左手を差しているのに気付く。
上着で簡単に手を拭いてのばしてみる。
ちょっとためらいがちに、でも嬉しそうに長門が手を握る。
ふむ、これが長門の温もりか。
なんて考えていたのが手の平から伝わったのか、長門が耳まで真っ赤になっている。
しかしここではそれを突っ込んではやらない。照れさせたままにしておく。
何故かって?
そりゃオレも傍から見れば、顔が真っ赤のテレテレ坊主になっているからに決まってる。

 

やがて門をくぐり教室へたどり着いた。
6組はあちらなのでここでお別れかと手を離し、窓際後方2番目の定位置に腰を下ろした。
長門もそのままついてきて、当然のように右横の席に座る。
この程度のことで動揺し、おまえのクラスは隣だよなんて無粋なことを言うオレじゃない。
長門が机をゴトゴトと揺らし、オレの机にくっつける。
教科書が無い時の当然の行為だし、ここもつっこむとこじゃない。
後ろの席の主もやってきたが、長門とオレにおはようとだけ言うと寝てしまった。
また深夜映画でも見てたのだろう。

 

予鈴が鳴り授業が始まったが、教師もオレたちの存在を忘れているかのように何も言わない。
長門は授業を聞いてるのかいないのか、チラチラとオレのほうを見る。オレも長門の方を見る。
いつも思うのだが、長門との間に特別な会話などいらない。
こうしてる間というか空気そのものがとても心地よい。

 

ふとした思い付きで教科書の写真に落書をして長門に見せる。
長門が吹き出しそうになって顔をそむける。
どうやらツボったらしく肩や背中がぷるぷる震えているのがまた可愛い。
気がついたら教科書すべてに落書きをしていた。長門はもうピクピク状態になっている。
少々やりすぎたかも知れない。
反省の意味も込め、机の下でそっと長門の手を握り謝る。
長門もやさしく握り返してくる。
また二人のゆっくりとした時間が戻ってくる。

 

あっという間の4時限が終わり、ランチタイムがやって来た。
一度も起きないハルヒをつつき、飯の時間だと教えてやる。ハルヒは学食に行くとだけ言い残しいなくなった。
谷口と国木田は少し離れたトコで2人で弁当を広げている。
こっちに来いと手招きしてやったが、遠慮するとばかりに頭を振った。
気を使わなくてもいいのにとも思ったが、無理強いすることでもないので、そうさせてもらうことにする。

 

今日のお弁当は当然長門の手作りだ。
食べさせてあげると箸を取りあげられたが、高校生にもなってそれは恥ずかしいと断った。
すると逆に大人なら黙って甘えるべきと諭された。なるほど。そういうものかと納得する。
朝飯もそうだったが、長門の料理は美味い。から揚げ、タコさんウィンナ、卵焼き、肉詰めピーマン、etc・・
彩りもキレイなお弁当はあっという間にオレの胃袋へと消えた。
食後のデザートにイチゴを食べながら、ゴマはイチゴから取れるのだと長門に教えてやる。
長門はなるほどと感心しながら話を聞いてくれる。
何でも知ってる長門。何も知らない長門。
このギャップがすごく魅力的で、そこをオレがとても気に入っている事を長門は知らない。
後でウソだと白状すると長門は拗ねてほっぺを少し膨らませた。その顔がまたとても可愛いことも内緒だ。

 

ハルヒの再登場と同時に予鈴が鳴り午後の授業が始まる。
満腹からくる幸せ波長に脳波も同調し、α波が全身を駆け巡る。いつしか夢心地になっていた。

 

長門の吐息が耳にかかる。「起きて」の言葉でオレは自分が寝ていたことを知った。
目を開けると緯度と経度が狂ったような位置に長門の顔が見える。
びっくりして飛び起きる。どうやら長門の膝枕で熟睡してたらしい。
慌てて弁明する。そんなオレを長門が目を細めて見ている。

 

寝ているうちに午後の授業は終ってしまい、HRで解散となる。
昼食以外ずっと寝ていたハルヒを再度起こして3人で部室に行く。
朝比奈さんと古泉はもう来ていた。存在するだけで、集まるだけで何か意義があるような気さえするこの集団。
そこできっと今しか出来ない時間潰しをしてるんだろう。うん、それがいい。

 

長門の本閉じチャイムで本日の業務終了。
5人で仲良く集団下校。そして長門と2人になる。
日が落ちるのが早い。

 

薄く弱い日差しで長身になった影法師の帰り道。
いたずら心で手を大きくのばし振ってみる。長門は不思議そうな顔してこちらを見てる。
お次は手の平を下にして回してみる。長門がまだわかってないようなので、下を指差して教えてやる。
オレの影法師が長門の影法師の頭をなでている。影がやってることなのに長門がまたはにかんで下を向く。
今日一日、2人あわせて何度照れたことか。
手をつないだ影法師が2つ、仲良く家路を急いでいく。

 

玄関のドアを開け2人でただいまを言う。
おかえりなさいと2人を迎えてくれる。
おふくろの作ってくれた晩飯を食べながら、今日一日にあった事をバカを交えながら話す。
どこにである夕食の1コマ。平凡な風景。

 

食事も終わり、風呂に入る。次に長門と妹が風呂に入る。
風呂上がりの長門は何とも艶っぽい。濡れた髪、上気した肌、石鹸の香り、湯上り3点セットは破壊力抜群だ。
もし妹がいなかったらどうなっていたかと思うと残念のような、心が準備不足のような複雑な気分。
ゲームと他愛ないおしゃべりで夜は更けていく。
「有希ちゃんと一緒に寝るー」
寝る寝る寝ーる、いい?というどこぞのCMのような節回しで歌う妹の希望もあり、3人で川の字になって寝る。
長門が何か言ったが、聞こえないふりをして「おやすみ」とだけ言うと、オレは目を閉じた。

 

わかってる。これは夢だ。いや夢の欠片というべきか。
上書きされた3日間の失われた、どこにも存在しない未来の断片。
前に長門に忠告されていた。どこにも繋がらない未来の1コマが現れるかも知れないと。
それは単なるバグだからと長門は言った。
認識し否定するか、もしくはバグに自覚させる事でエラーは除去され記憶も残らないと。

 

でもな、長門。オレは否定もしなかったし疑問にも思わなかったぞ。
それに誤解してくれるな。オレはこっちの世界を選んだけど、あっちの世界を否定したわけじゃない。
こんな未来なら大歓迎だし、この世界でそれが実現出来ないなんてことは無い。
長門の笑顔、長門の笑い声、長門がいる日常。
たまにはいいじゃないか、こんな一日があったって。
そうだろ?

 
 

翌朝目が覚めると1人きりだった。

 

まあ、これが当たり前か。
オレの寝ぼけた顔、目覚ましの音、1人きりの朝。昨日とは比べ物にならないほど色褪せた日常。
溜息を大きくつくと、ベットから起きて階段を下りていく。

 

顔を洗い、朝飯を食うべくキッチンへ向かう。
昨日と同じ風景がそこにある。
「キョンくん寝坊すけー」
「…寝坊すけ」

 

いってきますと2人で家を出る。
荷台にクッションを置き、長門をちょこんと乗せて自転車で疾走する。
道すがら長門が説明してくれた。
作日のアレは確かにバグだったのだが・・バグって言い方は失礼だな。
バグじゃない、あの長門は、オレが受け入れることで存在基盤を得ることが出来、
涼宮ハルヒが認識する事でたった一日だけだがこの世界で存在を確立し、現実のものとなったらしい。

 

ただそれは昨日だけのことであり、こうして話している長門は昨日の長門じゃない、いつもの長門だ。
あの長門はもういない。

 

なあ、長門。昨日、寝る前に言った「ありがとう」なんだが、
あれはオレが無理してると思ってたり、
あの世界を選択しなかった罪悪感からそうしてるとか、その、いや、別れの言葉のような、
そんな意味だったのかな。
長門は「違う」と答えた。
「あの時点で既に彼女の存在は確立されていた。きっと単純に言葉の意味そのものだと思う」と言った。
そうか。ならばそれでいい。
その言葉に答える時間は今からたっぷりとある。

 

長門から今後の注意点を聞かされていた。
情報操作である程度の整合性と誤魔化しはしたものの、昨日のことは二人の口裏あわせが必要らしい。
しかし、残念ながら今のオレの耳には入らない。
どこまでも滑っていきそうな加速のせいか、心まで空を飛んでる気分だ。

 

自転車を置いて、強制ハイキング改め、天へと続くシルキーロードを2人で歩いていく。
長門が不満そうに口を開く。
「・・真面目に聞いてる?」
すまん、だが何とかなるさ、と昨日のくせでつい長門の頭をなでてしまった。
しまったと思ったが、長門は頬を染めてちょっと困ったような、恥ずかしそうな顔でこちらを見てる。
どうやらあの長門が存在したことで、こっちの長門にも大きな変化が出ているらしい。
いや、もともと区別する必要なんか無い。どちらも本当の長門なのだ。

 

「・・何を笑ってるの?」
「んー、たまにはいいよな」
「・・何が?」
「笑ってる長門さ」
「・・バカ」
「そうだ、今日は節分だったな。なあ長門、知ってるか?恵方巻きって地方によって違うんだぞ」
「・・ウソ」
「ウソじゃない。秋田じゃきりたんぽだし、名古屋だとういろう、東京はカッパ巻き、
 ニューヨークじゃカリフォルニアロールらしい」
「・・へー」
「学校で誰かに自慢したらいい。恥かくけどな」
「!」
「あはははは」
「もーっ!!」

 

怒った顔も可愛いのは、オレだけの新しい内緒だ。
こうして新しい内緒が、たくさんの長門の表情で増えていく予感がする。
そしてそれが、オレの返事なんだとあの長門に伝えたい。

 
 
 

『ありがとう』
「オレのほうこそ、ありがとう」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:23 (2713d)