作品

概要

作者ながといっく
作品名Girls' talk in the bath
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-02-20 (金) 01:13:03

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「覗くなっ!」
 間抜け面してるキョンに向かって言ってやる。
 もちろん、本当に覗きにくるだなんてこれっぽっちも思ってない。
 古泉君は言うまでもないし、キョンはスケベだけどそんな度胸無いし。
 別に覗いてきたらそれはそれで面白いんだけどね。
 そういうわけで、今あたしたちはお風呂に入ってる。

 

 それにしてもこの館、変なところね。
 テレビもラジオも電話も、なーんにもないかと思えば、豊富な食料、こんなに立派なお風呂、カラオケルームなんてのもあるし。
 どこかの大富豪の別荘なのかしら?それとも古泉くんの仕込み?
 だったらせめて時計くらいあればいいのに。お陰で今何時かもわかんないわ。

 

 まぁ、とりあえずはなんとかなるでしょ。
 少なくとも食料はたっぷりあるみたいだから死ぬことはないしね。
 ……それに、あたしにはもっと気になることもあるし。

 

 女同士でお風呂に入るのなんて久しぶりだったから楽しかった。
 体を洗いっこしたり、みくるちゃんのおっぱい揉んで遊んでたり。
 やっぱりみくるちゃんのは大きいわね。何食べたらこんなに大きくなるのかしら。
 背は小さいのにね。栄養の全部が胸にいってるとしか思えないわ。

 

 有希はホントに細かった。それに肌がすごく白くて綺麗。
 まさに雪のような肌ってやつ?……別にシャレじゃないわよ?
 それに、前々から思ってたけど有希って結構着やせするタイプね。
 見た目的にはこう、小学生的なものを想像しちゃうんだけど、案外、ある。

 

 でも有希にいたずらはしないけどね。
 有希はきっと怒らないし、「何してるの?」みたいな目でじっと見つめられるだけ。
 いたずらってのは相手が恥ずかしがったり嫌がったりするから面白いのよ。
 有希ほどの無口キャラにはなかなかやりにくいわ。

 

 三人でお湯につかっていると、みくるちゃんがほんのり上気した顔で、
「あたし髪乾かすの長引いちゃうと思うので、先にあがってますねぇ〜」
 みくるちゃんはあたしたちより髪長いもんね。
「わかったわ。あたしたちはもう少しあったまってから出るから待っててね」
「はぁい」
 みくるちゃんはふわふわした足取りで脱衣所に出て行った。
 なんていうか、見てて危なっかしい子ね。上級生とは思えないわ。
 ちゃんとした大人になれるのかしら?
 ……たぶん、あたしも周りからはそう言う風に思われてるんだろうけど。

 
 

 さて、これで有希と二人っきり、か。
 みくるちゃんには悪いんだけど好都合ね。
 ちょうど有希と1対1で話したいことがあったし。
「ねぇ有希」
「……」
 ほんの少しだけ顔をこちらに傾ける有希。
 どことなく元気がない。まぁ、普段から元気があるとは言えないけどね。
 この子、具合悪くても隠しそうだからこっちが気を使わないとね。
 それはともかく、あたしは有希に聞きたいことがある。

 

「キョンと、何かあった?」
 ついさっきキョンにも聞いた質問。
 キョンは有希が転校するからどうこうとかって言ってたけど、きっとあれは嘘。
 どう見たって動揺してたし、目も泳いでたし。
 すっごい必死そうだったから騙されてあげたけどね。
 人が言いたくないことを無理に聞き出すのは好きじゃない。

 

 イヴの日からキョンはずっと有希を気にしてる。それに有希も様子が変。
 具体的に何がって言われるとわかんないけど、とにかくおかしい。
 だからきっと、二人の間に何かがあったことは間違いない。
 正直言って、有希にナニかするほどの度胸がキョンにあるとは思えない。
 それに有希も、ああ見えて運動神経は凄くいい。ひょっとしたらあたし以上に。
 あいつ自身も言ってたけど、仮にキョンに襲われたって返り討ちにしちゃうかもしんない。
 そうだとしたら、いったい何があったのかしら。

 

 ……回りくどく考えても仕方ないわね。
 結局のところ、あたしは"それ"を知りたいだけ。
 有希がキョンのことをどう思ってるのか、を。

 

 あたしの勘だけど、たぶん有希はキョンのことが好き。
 いつもクールで何にも動じない有希が、あたしにもわかるくらい明確に感情を表す時がある。
 それが、キョンと話してるとき。キョンと一緒にいるとき。
 そのときだけ、甘え、不安、動揺、期待、落胆、そういうものを有希から感じる。

 

 そして、あたしもキョンのことが好きなのかも、と最近思うようになった。
 よりによってキョンだなんて、馬鹿らしいし、悔しいし、認めたくないけどね。
 だいたい、恋愛感情は精神病だとか豪語しといて、今更口が裂けても言えるわけない。
 これが気のせいであってくれたらどんなに楽だかわからない。
 ……本気で恋愛なんてしたことないからわかんないのよ、あたしには。

 

 ともかく、最近キョンは有希を意識しだしている。
 今までだってみくるちゃんにデレデレしてたし、あたしもそれにイライラしたこともあった。
 けれどもあれはきっと男の性って奴なのよね。みくるちゃんはホントに可愛いし。
 きっとキョンだけじゃなく大抵の男はああなる。
 現に谷口の馬鹿や国木田だってみくるちゃんの前だと骨抜き。
 コンピ研の連中……は有希のほうが好みなんだっけ。ってどうでもいいわねそんなこと。
 とにかく、あのコを見て欲情しないのは男として枯れてるかゲイかどっちかね。
 ……あれ?ってことは古泉くんってもしかして……考えないことにしておこう。

 

 有希がずっと黙ってるもんだからあたしの回想も長引く上に脱線し始めている。
 まぁ、そう簡単に答えられる質問じゃないのはわかってるから、いくらでも待つけどね。

 

 ええと、どこまで話したっけ……
 今までも、キョンが有希を見る目は、みくるちゃんやあたしを見る目とはまた違うものだった。
 大分前から、キョンだけは有希の無表情の下の本心を理解しているような節があった。
 それは強い仲間意識や信頼関係を感じさせるものだった。
 何があったのかはわからないけど、二人が互いに信頼し合ってるのはあたしにもわかった。

 

 だけど、最近になってからのキョンが有希を見る目が変わった。
 今までの、頼れる仲間を見るような目じゃない。
 みくるちゃんを見てるときみたいなデレデレ顔でもない。
 あたしを見るときのような疲れた苦笑いでもない。
 ただ純粋に、有希のことを気にしている感じ。
 命に変えてでも守ってやりたいって思ってるみたいな。
 優しさの中に不安と決意が込められたような目だった。
 ……あんな目、あたしには見せてくれたことないのに。

 

 あれが有希のことを異性として意識している目なのかはあたしにはわからない。
 自分のことすら理解できてないあたしが他人の気持ちを理解できるはずがない。
 それでもあたしはとにかく不安だった。
 ――何が?
 キョンと有希が付き合うなんてことになったら嫌だもの。
 ――なぜ?
 SOS団の中で恋愛なんて、考えたくもないわ。
 ――二人ともあたしの大事な友達なのに?
 それにキョンなんかじゃ有希には釣り合わないし。
 ――有希の気持ちは無視するの?
 そうじゃない。あたしは有希のことを考えて…
 ――キョンを取られたくないだけなくせに。
 うるさいうるさいうるさい。
 キョンが有希だけのものになるのはイヤ。
 有希からキョンを奪って有希に嫌われるのもイヤ。
 あたしはどっちも失いたくないのよ。キョンも、有希も。
 わがままだって笑いたいなら笑いなさいよ。どうせわがままよ。
 でも、あたしは今の楽しい時間を失いたくないのよ。

 

 ひと巡り考えてそろそろのぼせそうになるころ、ずっと黙っていた有希がようやく口を開いた。
「……詳細は言えない」
 いつもと同じ淡々とした口調だけど、心なしか憂いを感じる。
「別にいいわよ。人には言いたくないことだってあるんだし」
 何かがあったってことがわかっただけでも収穫だしね。
 言いにくいことなのはキョンの反応でわかってたし。
 しかし、有希から返ってきた言葉は意外なものだった。
「……わたしが彼に迷惑をかけた」
「迷惑?有希がキョンに?」
「……そう」
 正直言って、まったく想像がつかない。
 二人に何かあったっては思っても、あたしは"キョンが有希に"なにかしたってパターンしか考えてなかった。
 先入観って奴かしらね?有希が人に迷惑をかけるようなことをするわけがない、っていう。
「……何があったかわかんないけどさ」
 有希がキョンにかけた迷惑。あたしには見当もつかない。
 有希がここまで変わっちゃうくらいだから、結構重大なことなのかもしれない。
 でも、あたしはある確信めいたものを感じている。
「多分あいつは迷惑だなんて思ってないわよ?」
「……」
 じっとあたしを見つめる有希。
「あいつは並大抵のことじゃ迷惑なんて感じないお人よしよ?
 自分で言うのもなんだけど、このあたしに振り回されてるくらいだもの。
 有希が迷惑だって思われるなら、あたしなんてそろそろ刺されてもおかしくないわね」
 自虐的に笑ってみせるあたし。
 少しだけ、有希の表情がやわらかくなった気がした。
「有希だって、たまにはわがまま言ったっていいのよ?」
「……」
「キョンだけじゃなく、あたしにも。
 みくるちゃんや古泉くんにだって。みんな、SOS団の仲間なんだから。」
 みんなに迷惑かけてばかりのあたしにこんなことは言えないかもしれない。
 でも、あたしはみんなのことを仲間だと思ってるし、みんなもそう思ってくれてると信じている。
 有希は視線をあたしから反らして前方へと向け、
「……そう」
 繰り返すようにもう一度、呟いた。

 

「……そう」

 

 ――目の錯覚かしら?
 有希が…微笑んだように見えた。
 一度瞬きすると、目に映る有希はいつもの無表情だった。

 

「もう一つだけ、いい?」
 無言でこちらを向き、こくりと頷く有希。
 その磨きこまれた石のような瞳に向けて問いかける。
 今、あたしが一番気になっていること。
「キョンのこと、す「涼宮さ〜ん、長門さ〜ん、どうしたんですかぁ〜?」」
 浴室に響き渡るみくるちゃんの声。
 みくるちゃんたら、今にも泣き出しそうな顔をしてる。
 いけない、長風呂しすぎちゃったかしら?
「みくるちゃんごめん!あんまり気持ちいいもんだからつい長湯しちゃって…」
「そうなんですかぁ。ごめんなさい、あまり遅いから心配になっちゃって…」
「大丈夫だって、誰もみくるちゃんから離れたりしないから……有希も、もうあがるわよ?」

 

 脱衣所。エアコンなんかは見当たらないのに妙に暖かい空間。
 みくるちゃんの身支度は整ってるから後はあたしたちだけ。
 あたしも有希もショートヘアだからそんなに時間はかからないけど。
 キョン達も待ってるだろうし急がないとね。
 ぼーっとしてる有希の髪を乾かしてあげながら、あたしは思った。

 

 ずっと、みんなと一緒にいられたらいい。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 あれから少しして、有希が倒れた時はびっくりした。
 凄い熱があったし、ぐったりしてたし、心配で見てるこっちが死んじゃいそうだった。
 でもあれも夢――集団催眠だっけ?――だって古泉くんは言う。
 じゃあ、キョンを問い詰めたのも、お風呂で有希と話したのも全部夢なのかしら?
 確かに、この辺に洋館なんてどこを探してもないみたいだし…
 よくわからないけどそういうものなのかもね。

 

 それでもあたしの耳から離れないものがある。

 

「……ョン」

 

 夢の中で聞いた有希の寝言。
 古泉くんは「4」の聞き間違えだって言ってた。
 でもあたしは思う。あれはきっと「4」でも「ジョン」でもない。

 

 あのマヌケ面の名前に違いない、と。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:22 (1868d)